6 もふもふ。
待ち合わせは、図書室B。
手を差し出されたので、掌を重ねると、足元が白く光った。淡い黄金色に魔法陣が見える。移動魔法だ。
酔いも与えない安定した移動魔法。お見事。
場所は変わり、何処かのお城のような廊下に立っていた。高い天井に、上質そうな赤い絨毯。
「もしかして……フィロザ様のお城ですか?」
「その通りだよ」
魔族の国にあるお城に連れて行かれたみたいだ。瞼を閉じると、宝石のような輝きを放つ魔力を感じた。なるほど。魔族は、宝石のような魔力の色をしているのね。城を飾り付けるような輝きが、美しく感じた。
「こっちだ」
「はい」
手を引いて歩き出す彼について行くと、渡り廊下を渡って一つの塔に辿り着いた。
「幻獣図鑑は隅の隅まで見たかい?」
「一通り見ましたが、それが?」
「ふふ」
訊ねても、無邪気な笑みをよこされる。そんな魔王様が、可愛いだなんて思ってしまう私がいた。サファイアの瞳が無邪気な輝きを放っていて見つめていたくなる。
そのフィロザ様が、重い扉を開けばそこには息を呑む美しさの生き物がいた。純白の毛に覆われたドラゴンだ。輝くほど純白のドラゴンに目を奪われ見惚れていた。けれど、その存在が獰猛だということを思い出して、思わず握った手に力を込める。
「大丈夫。幼い頃から俺が育てた。そう人を襲ったりはしないよ」
「ディアモンド、ですよね」
「そうだよ」
純白の毛に覆われた幻獣ディアモンドだ。
瞳はフィロザ様と同じサファイア。私の身長はありそうな大きな顔が、こっちに向いている。見慣れない私を凝視しているのだ。
「ディアモンド、こちらは俺の大事な人。シェリエル嬢だ」
俺の大事な人、だなんて紹介されてしまった。
ディアモンドは警戒をやめたのか、そっぽを向いて目を閉じる。
「近付いてもいいって」
フィロザ様はそう解釈したみたい。手を引かれるがまま、大きなディアモンドに近付いた。
「触れてごらん」
「……わぁ」
これはまた素晴らしいもふもふ。これに抱き付いて眠ったら良い夢が見れそうだ。白い毛が優しく包み込んでくれる。
「眠ってもいいんだよ?」
私の心の中を読んだみたいに、フィロザ様が言ってきた。でも私は唇を噛んで堪える。だって、好きな人にそんな醜態晒せる?
すると、フィロザ様が仰向けになって倒れた。手を繋いだままの私も巻き込まれて、ディアモンドの背中にダイブしてしまう。ディアモンドは、ピクリともしなかった。
「気持ちがいいだろう? 昔からこうして眠るのが好きだったんだ」
「……はい、心地がいいです」
フィロザ様の横でもふもふに包まれて、私は笑みを溢す。フィロザ様はただ私を眩しそうに見つめる。
「あの……訊いてもいいですか?」
「なんだい」
「どうして私……なんですか?」
何が聞きたいのかというと、どうして私を好きになったか。まだ好きだって言葉を聞いていないから、そう訊ねた。
「一目惚れだ」
「一目惚れ?」
「言葉を交わす前、図書室で眠っているところを見付けたんだ。日向の中で、黄金色に輝く君を見た瞬間、惹きつけられた」
そう言って、私の波打つプラチナブロンドの髪を撫でた。
「悪い噂が立っていたでしょうに」
「噂なんて当てにしないさ。実際の君と言葉を交わして、想いは深まった」
「……フィロザ様……」
私は今、彼を熱く見つめているに違いない。
彼も私を見つめ返す。髪に触れていた右手は、私の頬に移動してきた。そして、顎を上げさせる。
ゆっくりと顔を近付けてきた。私は受け入れて、そっと瞼を閉じる。
唇が触れ合った。優しい口付け。
サファイアの瞳と目を合わせては、微笑み合った。
すると、ディアモンドが動いて、尻尾で私とフィロザ様をくっ付ける状態になってしまう。密着状態に恥ずかしくなって頬を押さえていれば、彼は笑ってそんな私を抱き締めた。
もふもふの幻獣の上で、魔王子様に抱き締められるなんて、夢心地。