5 偶然の対決。
翌日、偶然のことにも、授業でフィロザ様と組むことになった。戦闘魔法授業。顔を合わせては、ちょっぴりドキドキしてしまう。でもフィロザ様はいつも通り私に笑みを向けた。
しかも、相手はなんてクラウスとミリア。
周りがざわついた。元許嫁関係の対決だもの。しかも最近、噂の私とフィロザ様の組み合わせ。ざわつかないはずがなかった。
「シェリエル嬢。加減するかい?」
そっとフィロザ様がそんなことを囁いてきたものだから、驚いてしまう。声が耳にかかる。近いですわ。
「どうしてですか?」
「彼は君の元許嫁ではないか」
「だからって気にすることはありません」
フィロザ様は学年一位の実力の持ち主。手加減は無用だ。むしろ、正々堂々とがっつんとやってほしい。
「そうか……君が気にしないのなら、全力で挑ませてもらおう」
「いきましょう」
準備は万端だと、向き合う。
私の前にはミリア。フィロザ様の前にはクラウス。
スタートの合図で詠唱が始まる。
でも私とフィロザ様の詠唱魔法が、先に発動して一網打尽にして、瞬殺。しかも同じ氷結の魔法で、二人の動きを封じた。封じたのならば、こちらの勝ちだ。
勝って、スッキリした。
「俺達、息がぴったりだ」
「そうですね」
私が笑うと、フィロザ様は眩しそうな表情になる。
「喜んだ君の笑顔は、やはり素敵だね」
「そんな……照れますわ」
そっと私の頬を撫でてきた。
昨日の今日で、それに人前で、私は照れてしまう。これでは公認のカップルではないか。悪くないと思っている辺り、自分でも認めてしまっているに違いない。
チラリとクラウスを見てみれば、こちらを睨むような視線を向けていた。
あら、なにかしら。文句でもあるのかしら。
私だって貴族令嬢。それなりの教育を受けて、上位の成績だ。フィロザ様と組めば、向かう所敵なし。
許嫁がいる身でいちゃラブしていた報復は、これくらいで充分だ。ああ、スッキリした。
気分も良いので私から、フィロザ様の手に触れて握る。
「ありがとうございます、フィロザ様」
「……君のためならなんでもするよ? シェリエル嬢」
そう言ってフィロザ様は、私の指に口付けを落とした。
周りがまたざわつく。でも今度は、気にならなかった。
彼だけが気になったからだ。
私を見つめて微笑んで手を握る彼しか、私の目に映らなかった。
昼になれば、図書室で会った。また私の隣に座る。どうやらこれが、今の私とフィロザ様の距離みたいだ。近い。嫌ではない。嬉しいものだった。
「放課後、空いてないかい? シェリエル嬢」
「はい、空いております」
「ぜひ連れて行きたいところがある」
「はい」
なめらかに私の名前を口にするフィロザ様に、またもや反射的に頷いてしまう私。すっかり彼の虜になってしまったようだ。
どこに連れて行くのだろうか。
訊ねてみれば、あとのお楽しみだと秘密にされた。