3 餌付け。
その予想は当たった。翌日の昼に、瞼を閉じて夢の中に入ろうとしたら、サファイア色の気配を感じ取る。魔王子様のご登場だ。
起き上がって髪を整えて、入って来た彼を出迎える。
フィロザ様は、挨拶をするとまた向かい側の席に座って軽くお話をした。
フィロザ様が図書室Bに通うようになって三日。甘いお菓子を持参してきた。まだ温かいフォンダンショコラ。翌日にはガトーショコラ。チョコが、私の好物だと誰からか聞いたのだろうか。
図書室は飲食禁止なので、近くのテラスで美味しくいただいた。
「美味しいですわ。ありがとうございます、フィロザ様。フィロザ様の好物はありますか?」
「お返しに何か用意する気なら結構だよ。俺は君が喜ぶ顔が見たかっただけだから」
お返しを用意しようと考えていたのに、断られてしまった。やっぱりどこからか、私の好物を聞いたに違いない。
もらってばかりではいけないから、はいそうですかと諦めるわけにはいかない。何か考えよう。
「私もフィロザ様の喜んだ顔が見たいですわ」
私は反撃してみた。
「それならいつも見せているよ」
にこ、とフィロザ様は笑みを深める。
それは私がチョコを食べている時に浮かべていた笑みだ。つまり彼は、私を見ながら喜んでいる。
「ではチョコによく合うコーヒーを用意します。お好きですか? コーヒーは」
「好きだよ。君がそう言うなら、明日はここでお茶をしよう」
サラリとお茶をする約束になってしまった。
私、図書室で居眠りしたいのですが。
言い出した私が断ることも出来ず、翌日も美味しいチョコレートのケーキを食べさせてもらった。チョコにはコーヒーが合う。
ご馳走さまでした。
ランチのあとだと、お腹いっぱいでもう眠気は尋常じゃなく襲いかかってきた。でも堪えて、フィロザ様と軽い会話を交わす。
フィロザ様は、どこか不思議そうに私を見つめていた。けれど、眠気が酷い私は気に留められない。
そんな風に二人きりの日々を過ごしたから、当然のように噂が立つ。テラスでお茶をしたり、図書室Bに二人で過ごしているらしい、と。
私が占領した図書室Bに、フィロザ様が入ってくるのだから噂されても仕方ない。
私はともかく、フィロザ様は気にしないのだろうか。