転・中編
短い!
横一文字に切り裂かれた傷跡が見える。横の長さは3cmもないだろう。だが、痛々しいほどの深さがある。
手が震える、何故だろう。涙が溢れる、何故だろう。姉に懇願するような顔で言葉を捻り出す。
「この、傷は事故で負ったものなのか?」
震える声で確認をする。
「違うわ、事故の傷はほとんど直ってる、だけど、事故以前の傷は時間が経ち過ぎていて治療できなかったそうよ」
「なんで…誰が……」
この傷は誰に負わされたのか、何故彼女にこんなことをするのか、理解できない。理解したくない。
「私からも確認するわ、柳ちゃんの交友関係はあんたから見てどう感じた?」
「特に……いつも別け隔てなく色んなやつと話してたよ」
「そう…、あまり言いたくないんだけど傷はそれだけじゃないの、身体中にあるわ。それも服を着ればある程度隠れるように、ね。柳ちゃんの親御さんにも連絡がつかないわ」
胸が苦しい、今朝食べたものを吐きそうになる。身体中に?たくさん?両親に連絡がつかない?何をやってる。お前らの子供だぞ!……そうか、お前らか、お前らがやったのか!!クソがクソがクソがぁぁ!ギリィと歯ぎしりが鳴る。
「これが今の柳ちゃんの現状よ。私は昼過ぎに講義があるからこれで帰るわ。じゃあ」
「待てよ」
姉が扉に向かって進めていた歩みを止め、こちらを振り返る。
「なんで…なんでそんなに冷静にいられるんだ?あぁそうか、2ヶ月いや、実質1ヶ月しか彼女と触れ合わなかったから情すら湧かないってか。そうか「パンッ!」
姉が喋り終わる前にこちらに近づいてき、乾いた音が部屋に響く。頬はジンジンと痛み呆然とした顔で姉を見つめる。
「ふざけないで!あんたがどう思うが別にいい!けど勝手に私の気持ちを分かったつもりで喋らないで、気持ち悪い」
そう言い残し、扉へと向かっていきこの場に残される。ズルズルと身体が地面に落ちていき、彼女のベットに寄りかかり惚ける。
俺は彼女に何ができただろう?あの時、傷に気づいたのに何故彼女に問い掛けなかったのだろう。何が彼氏だ、何が恋人だ。嫌われるのが怖い?ふざけるな!何一つ彼女の役に立ててないではないか。情がない?よく俺が言えたな。自分がバカバカしい。そんな問答を繰り返す。
一体どれくらいの時間が経っただろう陽は傾いており、あと数時間もすれば陽は完全に沈むだろう。すると部屋から笑い声が聞こえる。
「フッフッフッ…………」
「………ンフフフフ」
自分の口から無意識に乾いた笑い声が出る。
「そうか……治らないのかぁ、じゃあ俺が直す方法を見つけるよ絢。時間が掛かるかもしれないけど待っててくれ絶対に直させるから」
男は顔を歪ませ、彼女の髪を撫でる。
「じゃあ、行ってくるよ絢」
返事はない。ただ、男は電子音が規則正しく鳴る部屋から出て行く。
時は流れ、七年後。
白い、真っ白な通路を男は進む。男の後ろには白い服装をした女性が追随している。
「佐藤先生、オペの準備できています」
「あぁ、分かった」
2人は部屋に到着し、着替えを済ます。眩い光に照らされ、男は告げる。
「オペを始める」
物語は徐々に終末に進んでいく。