承・後編
月日は流れ、新たな年を迎え、残りの高校生活も僅かとなった。そんなあくる日、人生で衝撃的な出来事が起きた。
肌寒い風が窓ガラスに当たり、カタカタと音を立てる中、教室に柳さんと一緒にいる。
「ふぅー、これで終わりっと...柳さん、そっちは大丈夫ー?」
そんな事を言いながら脚立に見立てた椅子から飛び降りる。
「うん、こっちもあと少しで終わるよー.......よし、終わりー!佐藤くん待たせちゃった?」
「いや、大丈夫だよ、はい、このケースに画鋲入れてね。」
「ありがとう!じゃあ、帰ろっか!」
「おう」
そして、お互いに帰りの準備を進めながら雑談を交わしていく。今では、ある程度慣れてきたが冬休みに入る前に、急に柳さんに呼び出せれた時を思い浮かべる。
冬に入っているため、陽がいつもより落ちるのが早く、細々と雪が降っていた。そんな景色を壁に寄りかかりながら茫然と過ごしていた。すると、いつものように「佐藤くん」と透き通る声を響かせながら柳さんがこちらに近づいてくる。
「ごめんね、急に呼び出したりしちゃって...」
「いや、大丈夫だよ、帰宅部だし、特に用なんてなかったし。けど、何かあった?」
「うん、ちょっとね...」
そんな問答をしながら、薄々気付いているも自分からは話題を出さなかった。逆に、今の状況を見て分からないという人を逆に知りたいと思う。仄かに頬を赤らめて、チラチラとこっちの様子を窺ってくる...なにこれ可愛いと思いながら、表情には出さずポーカーフェイスで佇む。
「....よし」
ボソリと呟きながら決心した顔で、柳さんはこちらを直視する。
「佐藤くん、私と..付き合って、くれませんか?」
来たか、と思いながら、しかしどうして?と思う。柳さんはそこそこ、というか十人中七人は可愛いね。と言われる美貌を持つ。だが、俺は十人中十人に、普通だね、と言われる自信がある。自己評価においても、中の下、もしくは中の中といったところである。との評価を下している。だからこそ、問わねばならないだろう。なぜか?と。
「柳さん、正直に言って凄く嬉しいけど、なんで俺に?」
一瞬、考える素振りを見せながらも、彼女は結論を出す。
「気付いたら好きになってた。こんな理由じゃダメ?..かな....」
後半に行くにつれ、声が少しづつ小さくなってきている。彼女自身、他人を説き伏せるような理由じゃないから自身が無くなっていったのだろう。だが、俺自身そんな理由でも、いやそんな理由だからこそ、とってつけたような言葉ではなく彼女自身の言葉が聞けて気持ちが昂っているのだろう。
「全然、むしろ柳さん自身の言葉が聞けて嬉しい。だから、俺からも言わせて欲しい。柳さん..俺と付き合ってくれませんか?」
自分の顔が熱くなっているのが分かる、あぁ、こんなに緊張したのはいつ以来だろうか。この心臓が高鳴る音は柳さんに聞こえていないだろうか。そんなことを考えながら彼女の返事を待つため、ゆっくりと顔を上げていく。すると、そこには驚いたそして、嬉しいようなそんな顔しながら、彼女は口を開く。
「はい.....よろこんで、翔くん。」
そして、俺たちは付き合うこととなった。
「今日も疲れたねー、最後の委員会活動も終わったし、なんだか寂しい感じがするね。」
「もう終わりかー、長いようで短かったなー。」
自転車のチェーンの音が、束の間の沈黙に響き渡る。そうして、彼女はフフッと顔を綻ばせながら、こちらを見る。
「そうだねー、でもあの時、翔くんに告白するときかなり緊張したんだよー、こう胸がバーンって!」
「そ、そうか...」
普段と変わらない、だがそんな生活が前よりも充実している感じがする。いつもの帰り道、暗く、だが街灯の光が段々と続いていく道、たった一人の人物のお陰で日常がこんなに楽しくなるなんて、人生なにがあるか分からないな、と自嘲気味に考えに耽っていた時、唐突に声が上がる。
「あっ!猫ちゃんだー!それも黒猫~!かわいいなぁー、ほれウリウリ~」
「やな..絢...ちゃん、そこ車道が近いから危ないぞ。」
注意を促しながらも、黒猫とじゃれついてる彼女を見つめていると心が和んでくるなー、と考えていると、チラリと彼女のスカートの中が見えてしまった。これは、不可抗力、自分は悪くない、悪いのは無防備な彼女が悪い。と適当な理由を付け自分を正当化していると、ふと自分が何故か浅ましく感じる。見えてしまったのはしょうがない、なら満喫しようではないかと開き直った所で、彼女の太ももに傷が付いてる、ふと、いつか感じていた違和感をまた感じる。でも、今日は体育が有ったし、ソフトボールが女子の番だったからその時に付いた傷なんだろうなと思い、視線を逸らす。「ニャ」と言う鳴き声で、猫が彼女から離れていく。
「あぁー、猫ちゃん行っちゃった...」
「まぁまぁ、またいつか会えるだろ?きっとこの辺でうろうろしてるんだから」
「そう..だね。また、"いつか"逢えるよね..」
そうして、彼女は立ち上がり。「帰ろっか」と言い。それに追随していく。いつもの、別れる場所にたどり着き。彼女は「問題です!」と声を張り上げる。
「ビックリしたぁ、急にどうしたんだ?」
「まぁまぁ、じゃあ、問題です!私の志望する大学はどこでしょうか!ヒント!私は、頭が良いです!」
え?と思いながらも、問題に答えるべく考えに耽る。そして、近辺の大学で頭が良いとなれば..と自分の中で選択肢を狭めていく。そして、二つの大学に絞られ、それを口にする。
「○○大学?」
「ぶぶぅー!ヒントこの地元ではありません!」
手でバッテンを作りながら、彼女は答える。地元じゃないなら分からん!と思いながら、溜息をつきながら両手を上げ「降参、わかんない」と答える。すると彼女はニコニコしながら、答えを言う。
「正解は~....京都にある△△大学でした~!」
「名門じゃないか、凄いな。」
「えへへー」
彼女は照れながら、さらに言葉を繋ぐ。
「でも、翔くんと一緒に地元で□□大学も良かったんだけどね、ちょっと、家の事情で...」
悲しそうな顔で彼女は言う。家の事情じゃ仕方ないだろうなと思い、返事をする。
「家の事情なら仕方ないよ、残念だけどお互い連絡を取り合えば大丈夫だろ?」
「うん!寂しくなって電話してきてもいいんだからね!」
こうして、お互いに雑談を交わしながら時間が過ぎていく。
「じゃあ、来週また。」
「うん!じゃあね!」
時は残酷に、しかし希望をもって流れていく。
そして、残り少ない高校生活が過ぎていった。
高校生のイチャイチャ具合がオッサンには分からないため、妄想で保管しています。
このシチュエーションを目の前でやられたら、砂糖を吐く自信があります。