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夢想恋歌  作者: No.Tri
3/9

承・前編

朝食を済ました俺は試練と呼べる場所にいた。その名を職員室という。

ガラガラと扉を開け、声を張り上げる。


「失礼しまーす、佐藤翔です。香月先生はいらっしゃいますか?」

「佐藤か、こっちに来い」


あぁ、今日も変わらずガチムチだなと、失礼なことを考えながらトコトコと歩み寄っていく。


「佐藤、一応確認するがなんで遅刻したんだ?」

「先生、これは不可抗力なんです。一種の運命とも呼ばれる事象だったんです。全国には自分の様な「佐藤、寝坊だな?」はい」


はぁーと、重い溜息をつきながらこちらを睨んでくる。決して、元から顔付きが厳つく、どこぞのマフィアの元締めをしている様な顔だからではない、純粋に睨んでいるのだ。


「佐藤、もう3年だからと言って気が緩み過ぎているんじゃないのか?推薦で大学に通っていたとしても、その後の高校生活によっては取り消しになる可能性だってある。このことしっかり理解しているのか?」


一瞬、受かったなら別に関係ないじゃん!と思っていたとしても、この場を早く切り抜けるために適当に相槌を打つ。


「はい、ちょっと気が緩んでいたかもしれません、以後気をつけるよう善処します。」


はぁーと、またも重い溜息をつかれ、少しムッとするも、返答を待つ。


「もういい、次からないように気をつけろ、いいな?」

「はい」

「なら、教室に早く行け」


ふぅ、と内心安堵しながら職員室を抜けていく。

チラリと自分の腕に嵌めている時計を見て、もうすぐ2限が終わる頃かと考え、ボーとしながら教室に向かう。


昼休み


「佐藤、社長出勤なんていつからそんなに偉くなったんだ?」


そんな軽口を叩いてくるやつは、高校から出来た友達で基本的につるんでいるメンバーの一人であった。


「悪いな、ちょっと交差点で迷子になってるお婆ちゃんがいたから、道案内に手こずってな。」

「マジかよ!そんなことあるんだな!」


内心、そんな嘘を当たり前に信じるお前が、そんなことあるんだな!と逆に問い掛けたくなる。


「いや、嘘だから騙されんなよ。」


と、見た目インテリ系のいつものメンバーの一人が相槌を打つ。


「佐藤!騙したな!」

「騙してない、ただ可能性の一つに過ぎないことを言ったまでだ。」

「中野は結構アレなんだから、弄るのも程々にな。」


そんな、寝坊というイベントが有ったが普段通りの高校生活を過ごしていた。

そんな時、「佐藤くん」と透き通る声が響いてくる。

くるりと首を後ろに向け声の正体を見つめる。


「柳さん、か、どうしたの?」

「実は、今日、委員会の集りがあるんだけど、朝のHR来てなかったから、伝えようと思って。」


天使だ、と思いながら臆面には出さず平静を装いながら返事をする。


「ありがとう、柳さん助かったよ。」

「ううん、当然のことをしたまでだよ!それじゃ!」


そう言いながら彼女は、待っているグループ女子の場所へと戻っていく。


「柳さん、やっぱ可愛いよな?ああいう彼女が欲しい!」

「中野、お前はちょっと黙っとけ」

「けど、佐藤も良いよなー、あの柳さんと一緒の委員なんだから、会話できるじゃん」

「そうそう、中野の気持ちは十分に分かる。いや分かりすぎる!」

「杉田…お前もなのか……」


そんな雑談をしながら昼休みを終えるチャイムが鳴る。



「えー、以上で今日の委員会を終わります。各自気をつけて帰るように、では解散ー」


そんな声とともに、普段と変わり映えしない委員会が終わる。

ガヤガヤと皆が会話しながら解散していく中、「こっちも帰るか」と柳さんに声をかける。


「ちょっと待って佐藤くん、まだ片付けがあるから。」

「りょーかい」


そんなやり取りをして、柳さんの支度を待つ。そして数分後。


「ごめんね、待たせちゃったね。私達も帰ろうか?」

「いいよ、じゃあ帰りますかー」

「佐藤くんは、自転車だっけ?」

「そうそう、そして柳さんは徒歩だよね?」


クスクス笑いながら、柳さんは頷く。こうした仕草が、一々男の気を引くと彼女は分かっているのだろうか?そんな、自問自答をし、帰途につく。


「もう、夜も遅いし近くまで送っていくよ。」

「大丈夫、私の方が家が近いんだし一人でも大丈夫だよ!むしろ佐藤くんの方が家が遠いんだから、早く帰らないと!」

「うーん、といっても男が夜遅くまで出歩いたとしても、襲われる危険は特にないしなー。逆に連行される可能性はあるかもだけど。」


そんな冗談を言いながらも、結局は彼女を家まで送るために、自転車を押しながら雑談を交わしていく。そして、唐突に突風が二人を襲う。柳さんは髪とスカートと抑え、俺は顔を逸らし目を細める。たまたま顔逸らした方向が柳さんの方だったため、違和感に気がつく。しかし、「風凄かったねー」と柳さんがニコニコしながら問い掛けてくるため、ただの気の所為かと思い。「凄かったなー」と相槌を打つ。


「じゃあ、私の家ここから真っ直ぐだからもう大丈夫!じゃあね佐藤くん!また明日!」

「また明日ー」


手を振りながらお互いに別れていく。そして、ある程度離れた辺りから自転車に乗り颯爽と家へと向かっていく。そんな佐藤の後ろ姿を見ながらボソリと呟く。


「じゃあね、佐藤くん、また、明日。」


そんな悲しそうな声で呟く言葉は誰にも、聞こえない。聞こえたのは彼女のみである。


そして……




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