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マネキン(17/02作)

作者: euReka

 私が人間になったとき、私は淡い水色の、春物のワンピースを着ていました。頭には麦わら帽子をかぶり、腕にはバスケットをぶら下げていたので、まるで春の陽気に誘われてピクニックにでも出かけるような恰好だったでしょう。私は、デパートの婦人服売り場に置かれたマネキンでした。ですので、そのお店にいた人たちはマネキンが急に動き出したと思ったのです。しかしそのときの私はすでに人間になっていたので、正確にいうとマネキンが動き出したわけではありません。私は売り場の店長に挨拶をして、店内で騒動を起こしてしまったことや、もうマネキンとして働けないことを謝りました。季節はまだ冬だったので、外には雪が降っていたのを覚えています。


 私はデパート側の計らいで、婦人服売り場の店員として雇ってもらえることになりました。仕事の様子はいつも見ていたので、仕事を覚えるのにさほど苦労はしませんでしたし、同僚の方たちはとても親切にしてくれました。しかし、売り場に置かれているマネキンたちの視線にはどこか冷たいものがあり、私のことを疎ましく思っているように感じました。もちろん、マネキンに感情があるはずはないのですが、自分も昔はマネキンだったのですから、そう簡単に心を割り切ることもできません。

 結局、私は一年ほど働いたあと、デパートの店員を辞めてしまいました。


 仕事と住む場所を失った私は、あてもなく街を歩いていました。するとある日、ゴミ捨て場に裸のマネキンが横たわっているのが目に入り、私はしばらくその場から動けなくなりました。マネキンは男性の形をしており、仰向けになって空を眺めていました。私はゴミの中から見つけた服をそのマネキンに着せると、彼の体を抱えてその場を去りました。それから歩き疲れて公園のベンチに横になると、私は長い夢を見ました。


 夢の中で、私と彼は結婚し、子どもを作りました。あまり収入は多くなかったけれど、子どもを大学までやって立派に育て上げることができました。やがて子どもも結婚し、孫を抱くことができたのです。

 私は夢から覚めると、海の見える窓辺に座っていました。手を見ると皺だらけになっており、体も少し重く感じました。

「年を取ると皆そうなるのさ」と、傍らに置かれたマネキンの男性が言いました。「でも、君はそれで満足なのだろ?」

 海辺には、麦わら帽子の女の子が歩いていました。今日は、ピクニックにはよい天気です。

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