ブランカ3
風呂から上がり、宿屋の寝間着に着替えて食堂に向かう。
大きなテーブルの真ん中に、リカエルはマリエルと向かい合わせに座らされた。
目の前に食事が並ぶ。
食べようとした瞬間、きゃあきゃあとした声が聞こえて、いつの間にか沢山の女の子に取り囲まれていた。
「来るのはいいけどね、状況見ろよ
騒ぐのはおいら達の飯が終わってからな」
マリエルがため息を付きながら言うと、女の子達は大人しく空いている隣のテーブルに移動した。
温かいシチューを口に運びつつ、ちらりとマリエルを見ると、こちらの視線に気づいたらしい。
「何か言いたいか?」
「綺麗な人は・・・やっぱり人気があるんだなぁ・・・って」
くくくっと喉で笑ったマリエルは
「子供だけど、お前も充分綺麗だぞ、リカエル?」
言われてビックリする。
そんなこと言われたこと無かったから。
ご飯が終わると、離れていた女の子達がまた戻ってきた。
その中の1人が小ぶりの箱を差し出した。
「ずっと渡したかったんだけど、マリエルちっとも来なかったから。
これっ、これね、頼んで作ってもらったの、他には無いの、たった一つなのよ」
「みんなでお小遣い出し合って、頼んだの」
「マリエルだけのカードなのよ」
そう口々に言ってくる女の子達。
マリエルが箱を開けると、そこには綺麗な色絵のカードが入っていた。
(占いのカードだ・・・ってことはマリエルさんは占い師なのかな)
黙って見ていると
「凄いや、みんなありがとう。
お礼は恋占いでいいか?」
マリエルの声にきゃぁっと女の子達の嬉しそうな悲鳴が上がる。
笑を浮かべてカードを取り出し、1枚1枚真剣に確認して、最後の1枚まで終わると、数回シャッフルした。
「じゃぁ行こう、誰からだ?」
そう言ってテーブルにカードを裏向きに並べる。
横1列に均等に並んだカード。
それだけでマリエルがカードを使い慣れてるのが判る。
そして食堂が混み始めるまで、マリエルは女の子達に占いをしてあげていた。
☆☆☆☆☆☆
女の子達が帰ると、マリエルと一緒に部屋に向かう。
「マリエルさんは・・・占い師なんですか?」
おずおずと聞いてみると
「占い師、ではねーな、それで食ってる訳じゃないから。
これは趣味、ってか嗜み、かな」
当たるらしいんだ、とマリエルが笑う。
占ってやろうか?と言われたが、どう返事をすればいいか迷った。
「さっきみたいな恋占いは1枚見れば十分なんだ、上手くいくかいかないか、だからな」
大事なことを占うなら、昨日と今日と明日を見る。
それは過去と現在と未来と言う事。
部屋には1人サイズのベッドが左右に1つづつ。
真ん中にテーブルとが1つと椅子が2脚。
マリエルがその椅子の一つに座った。
カードをシャッフルして、テーブルに綺麗な波を描くように横に流した。
「3枚選べよ」
反対側の椅子に座ったリカエルは、少しだけ迷ったが、3枚のカードを選んだ。
美しい色絵のカード。
同じものがない、たった一つのマリエルだけのカード。
3枚のカードを見つめるマリエル。
「過去はいいや、お前の目的は王城だな、その目的なら心配ない、無事に行ける」
左の1枚のカードを避けて、そう言った。
ビックリした。
当たってたから。
行きたかったのは、この国のお城だから。
「魔法使いに会いたいのか?まぁ、それも叶うな」
僕の心が読めるのだろうか?
本気でそう思うくらい言い当てられた。
目を真ん丸にして驚いているリカエルの頭をマリエルが撫でる。
「明日明るくなったらすぐ出よう、だから寝るぞ?」
言うなりマリエルはベッドに潜ってしまった。
(お昼過ぎまで寝てたし、眠れるかな・・・)
そう思いながらリカエルもベッドに入ったが、横になると不思議に眠気がやってきて、あっという間に眠ってしまった。
夜中 ー
マリエルがベッドから起き上がり、テラスの扉を開けた。
部屋は2階にある。
テラスの下で、月明かりに浮かぶのは丸くなって眠っているように見える白い狼。
「ブランカ」
小さな声だったが、それに応える様にピクリと片耳だけが動いた。
それを確認すると微かな笑を浮かべて、扉を閉めると再びベッドに潜った。