ブランカ
やーん、ブランカちゃんモフモフーーー
真っ白綺麗ーーーーー
1軒の食堂の外で寝そべっている巨大な白い狼に、数人の女の子が抱きついている。
王都から離れた田舎は自然が多く、野生動物は多い。
狼も多い。
魔獣もいる。
だが彼女達を含め、街の人々は知っている。
それらがむやみに人に害なすものでは無いと。
ブランカが見るからにただの狼ではなくて、魔獣であるのを知っていても、その美しい姿と毛並みはオシャレ好きな女の子たちには魅力的なのである。
ブランカが嫌がらなければ問題はないし、嫌なら最初からそこに寝そべるようなことはしない。
そんな姿を笑顔で見ていたマリエルが視線を店内に戻した。
「ここら辺て、盗賊の類居なかったよねぇ?」
「あー、何か山超えて来た?って噂よね
ここは警備隊も常駐してるから襲ってこないみたいだけど、隣国からの商人とか襲われたみたいよー」
1番年上らしい女の子が言った。
「ふぅん、こっちからの商人は襲われないの?」
「盗賊の噂以降は国境まで警備隊が送ってやるのよ」
「そうそう、何時戻ってくるかの連絡が来るから、警備隊が国境まで迎えにも行くし」
「お礼、ってあちらの国のお土産とか貰えてるから楽しいみたいよ、あ、マリエル内緒よ?これ」
言った後でしまった、と言う顔をした女の子が人差し指を唇の前に立てた。
「大丈夫、言わないよ」
マリエルはクスッと笑う。
賄賂と言う程もないささやかなものだろうそれに、文句をつける必要も無い。
「他に変わったことある?最近魔法使いとか来なかった?」
「魔法使い?聞かないわね」
「ここ数日狼の遠吠えは増えてたけど」
「そっかー」
大した情報は無さそうかと思った時
「あ、町長の家に子供が1人保護されてるわ」
☆☆☆☆☆☆
保護されたのは昨日の夜中。
擦り傷だらけでボロボロの10歳くらいの少年を、夜の巡回中だった警備隊が見つけたそうだ。
街の子ではないし、着の身着のままで荷物を持っている様子もない。
首から下げて、衣服の中に隠した巾着袋には、僅かな銅貨が入っていたと言う。
「これはマリエル様、お久しゅうございますな」
見た目もそうだが、中身もそのままほんとに人の良い町長に笑顔で迎えられ屋敷内に案内された。
「この先でうちの見習いが盗賊に襲われてね、それの応援で来たんだー
盗賊の後片付けを頼めるかなぁ?」
「もちろんです、ではこの街道もしばらく安全でしょうね」
「うん、しばらく大丈夫だと思うよ」
お茶を勧められながら日常の話を聞いて行く。
「おいらは街道沿いの街や村に寄りながら王都まで帰るつもりだけど
何か用事があればついでで預かるよ、何かある?」
「ありがとうございます、今の所は別に・・・あ」
「何?」
「実は怪我をした子供を保護しておりまして、ちょうど今日王城に報告の手紙を送った所でした」
案内された客間のベッドに寝ていたのは、確かに10歳くらいの少年だった。
青銀の短めの髪。
目を閉じているので瞳の色は判らない。
怪我だけでなく、かなり疲弊しているのも見て取れた。
ー 逃亡中、ってとこかな ー
しばらく観察したあと、ベッド脇の椅子に腰掛けたマリエルは、そっと少年の手を握った。
青かった痣や擦り傷が、徐々に消えていく。
少年の顔にうっすら赤みがさすと、瞼が上がった。
金がかった薄青の瞳。
これでおいら位の歳だったらモテるだろうな。
「・・・お兄ちゃん、誰?」
「おいら? マリエル、お前は?」
「・・・」
「言いたくなきゃいいぞ?」
「・・・リカエル」
「そうか、で、リカエルはどこに行きたいの?」
リカエルが目を瞬いた。
「え?」
「どっかに行くつもりだったんだろ?
おいらこれから王都まで行くからさ、行きたいところが被るなら連れてってやろうかと思って」
リカエルは逡巡する。
信用していいのだろうか?
昨夜は力尽きて、気づいたら町長の家で、いつまでもゆっくりは出来ない、あの魔法使いが何時襲ってくるか・・・
「狼をけしかけてた魔法使いなら、もういないぞ?」
「え?」
またもや瞬くことになった。