白い魔法使い2
天井に浮かぶ魔法で描かれたこの国の地図。
北には険しい岩山に沿って、隣国との交易路がある。
その周辺に赤い点が2つ点滅しているのが解る。
「ほらほら、早くしないと前途ある若者2人が消えてしまう」
にやりと笑いながら目線だけで点を指す。
この国の王子、次代の王になるサーモスだった。
青みがかった金の髪と青い瞳を持つハンサムである。
「うっせえな、暑苦しい名前と肩書きだけの男がしゃしゃり出るんじゃねぇ」
横槍を入れてきたこの国の次世代の王にもマリエルは遠慮のない嫌味を言う。
「ッなんだとぉっ!」
マリエルの反論に涼しい声が熱を帯びる。
「あー」
それでも視界の端に赤い点を確認していたマリエルが声をあげた。
「獣の群れが集まってるな。
クッソ魔物使いがいる!」
そう言うと一目散にテラスに向かった。
「ブランカーーーーー!!」
叫びながらテラスの手摺を飛び越えると、何処からか現れた大きな白い狼が、マリエルの身体を宙で背に受け止めた。
狼の身体が地面に着く直前、1人と1匹は突然広がった魔法陣の中に消えた。
「相変わらず鮮やかなもんだな」
「毎日騒がしく申し訳ない」
魔法陣が消えた辺りを、シャークとサーモスが見下ろしていた。
「あいつは呪文を唱えないな、それでも陣が出せるのか」
移動陣もそうだが、魔法で陣を描くにはそれなりの呪文がある。
使う魔法使いによって、それぞれ文言は違うが、何れにせよ陣には呪文があるのだ。
だから陣を描く時には出来るだけ意識を集中し、最低限の動きで呪文を唱えるのが普通で。
だがマリエルはそういった呪文も無しに、陣を形成してしまう。
そんな魔法使いがいるなど、過去の記録にもない。
「頭の中に思い浮かべれば良いのだと、そう言ってましたな」
「陣の形を?」
「いえ、《移動陣》とか《結界》とかだそうですよ」
「・・・」
「有り得んな」
「まぁそうですよね」
☆☆☆☆☆☆
北の交易路。
1人の魔法使いと1人の兵士が、背中合わせになって立っている。
歳の頃は15位か。
2人とも肩で息をするほど疲れていた。
周囲に倒れている人間は盗賊の類だろうか、ようやくそれを倒したと思ったら、狼の群れに取り囲まててしまったのである。
「狼、2匹くらいなら、何とか、行ける、かも」
息を切らせながら魔法使いが言う。
「俺も、2匹、かも」
兵士も言う。
だが狼は10匹以上いるのだ。
「グラス、移動陣で、次の街くらいなら、飛ばせる、から」
懐から何やら紙の束を取り出した。
「バカ言うな、デミ、なら、お前が、飛べよ」
「僕、体力ないから、飛んでも、その先に、行けない、グラスは、兵士だから、っ」
焦りと緊張で更に息が荒くなる。
狼達がその距離を詰めようと動きを見せた時。
「はいはい、お前らの友情はよぉく解ったよー」
声とともに巨大な魔法陣が現れると、1人と1匹が突然現れた。
「「マリエル!!」」
「ブランカ、狼頼む!・・・って、そこだ!魔物使い!!」
キラキラと広がっていた移動陣がゆらゆらと蠢いて1本の紐に姿を変えると、岩陰に向かって矢の様に飛んだ。
かすかな唸り声が聞こえた時には、狼は全て蹴散らされ、マリエルは岩陰を見下ろす位置で覗き込む様にしていた。
「ふん、お前が魔物使いか、狡い手を使いやがる
そういう魔力は最低だからな、取り上げさせて貰うぜ」
マリエルが手を翳すと、そこに光の粒が集まり始める。
それはスイカ程の大きさになると、一瞬で弾け消えた。
「お前、もう魔法は使えないよ、残念だな」
岩陰では魔力を失った元魔法使いが意識を失って崩れ落ちた。