白い魔法使い1
「おじちゃんの名前聞いてないね」
「あぁ、そうだな
私はシャーク、シャーク・マリンウェルと言う」
「お城の仕事って何?」
「私は魔法使いだ。
白い魔法使いとも言われている。
解るかな?」
「うん、解るよ。
おいらも魔法は使える、多分おじちゃんと同じ位」
ー 今はね ー
心の中で呟いたのはマリエル。
「私の所で育つのなら、養子の手続きをしよう。
お前ほどの魔力ならお前に跡を継がせてもいい」
「おいらは半神を探してるんだから、見つけたらどうなるか判らないよ」
「その時はその時だ。
少なくとも半神については文献より詳しい事が判るようだし」
マリエルの背中に、フフフ、と言うシャークの忍び笑いが伝わる。
暗かった道はいつの間にか家が立ち並ぶ街に入り、2人と1匹を載せた馬は王城の中に吸い込まれて行った。
このあとマリエルはシャークを親父様と呼び、屋敷は賑やかになったが、マリエルの思春期から以降《親父》《クソ親父》《クソジジイ》と呼び名が変化して10年が過ぎる事となった。
言葉はすこぶる悪いが、決して仲が悪いわけではなく、仲が良すぎる故の照れた呼び名であると使用人達は理解していた。
シャークも《マリエル》《坊主》《糞ガキ》と呼び方を変えていたし。
だが王城の魔法使いの住む1画では、毎日のように親子喧嘩による破壊と言う迷惑行為が展開されていた。
☆☆☆☆☆☆
激しい爆裂音とともに、城の壁が吹き飛ぶ。
崩れた外壁は地面に向かって落ちていくが、人の背丈の2倍程の位置で全てが停止する。
よく見ればキラキラと銀色に輝く魔法陣が広がり、壁材を全て受け止めているのだった。
「クッソジジイーーーーー!!!」
「親に向かってどの面下げて言うか糞ガキがーーーー!!!」
ここ数年、王城の名物となった白い魔法使い親子の喧嘩である。
庭の鍛練場で剣を振るっていた兵士達が、苦笑いをしながら見上げている。
花が咲き誇る園庭で国王と王妃は驚くこともなく、お茶を嗜んでいた。
「マリエルのおかげで、シャークはストレス解消が出来ているようだな」
「そうですね、お互い言いたい事は言いませんと」
微笑ましいものを見るように、壊れていく壁を見上げる。
「壊れた壁はどうなりますの?」
「新人の魔法使いが鍛錬も兼ねて修復致します」
王妃の質問に侍従が答えた。
「なら思う存分壊しても大丈夫ね。
あ、お茶をおかわり」
楽しげな王妃を楽しげに見つめる国王。
魔法使いが働く部分以外は至って平和なのである。
王城が壊れても、兵士が呆れても、国王夫妻がのほほんとお茶をしていても、魔法使いは優秀で、兵士は強くて、国王は有能なのである。
土埃が舞い上がる室内。
青年と言える年齢になって、白金の長い髪を頭のやや高い位置に革紐で結び上げ、揺るがない黄金の瞳が見つめるのは、茶金の髪に琥珀の瞳の40代半ばの男である。
「文句を言わずにさっさと行け、無駄な時間を食ってる間に可愛い部下がやられてしまうだろうが」
「やられそうな奴を行かせたのは誰だよ、最初からおいらが行くって言ってたよな?!
お前が行けよ、クソジジイ!!」
「行けるならとっくに行っとるわ、糞ガキが!
無理だから頼んでるんだろうが!」
「どこが頼んでる態度だ老いぼれーーーー!!」
「何時までやっても水掛け論なんだから、マジで早く行ってくれないかなマリエル?」
親子の間に爽やかな声が割り込んできた。