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次の日、学校へ行くと教室には山本の姿があった。
「やあ、久慈君。どうかしたのかい?」
啓太が声をかけると山本はにこやかに答えた。あれからどうなったのか尋ねても話がかみあわない。どうやら山本は記憶をなくしているようだった。着替えを盗んだことを隠しているだけではないのか、と探りを入れてみても何も出てこない。しばらくの間、かみあわない会話を繰り返した。
「ねえ、さっきから何の話をしているんだい?」
「だから、昨日のことなんだけど」
「昨日……って、何かあったかい?」
山本は不思議そうな顔をした。
「うん……いや、なんでもないんだ」
ごまかして、啓太はその場を離れた。これ以上話しても何の進展もなさそうだった。
山本はこんな性格だっただろうか、と啓太は思った。もっときつい口調の人物だった印象があるが、ほとんど喋ったことがないからそう思いこんでいただけなのかもしれない。一日で人格が変わるなんてことは……あるわけがない。
宿題の残りを片づけたり、次の授業の準備をしたり、誰かの席に集まってテレビ番組の話をしたり。授業が始まるまでの中途半端な時間を生徒たちはあいまいに過ごしていた。
啓太は自分の席に向かった。昨日のことをよく考えてみたかった。
席に座ると教室の隅から女の子たちの声が聞こえてきた。
「あっ、私のジャージこんなところにあったんだ!」
「やっぱり忘れてただけじゃん。あんなに騒いでさあ」
「そうよ、里香のジャージなんて誰も欲しがるわけないでしょー」
「あはは。でもこんなところに入れてたかな?」
そう言いながら広げているジャージは、昨日山本のカバンの中にあったもののようだった。山本の様子を確認したが、女の子たちの話には反応していなかった。黒板をぼおっと見つめている。記憶をなくしているのは間違いないようだった。でなければ今の会話に何か反応をするはずだ。
昨日、啓太と山本を連れ去った魔女の格好の女の子は何だったのか。あれから山本は何をされたのか。どうして記憶がなくなってしまったのか。
啓太は授業中、窓の外を眺めながらそんなことを考えていた。