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「いや、いいです……」
「でも、もう暗いわよ?」
「大丈夫ですから……」
家に帰るくらいは啓太一人でできる。巌の隣を歩くのも避けたかった。
それを聞いた巌は無言で啓太を見つめた。これが嫌なのだ。巌の瞳には悪意などかけらもない。ただただ親切で、啓太のことを心配してくれているのだ。それが迷惑なのだ。感謝するべきなのはわかっている。他人のことをこんな風に思ってくれているのだから。だが巌のまとわりつくような視線からは逃れたかった。押し付けないで欲しい。出来れば関わりたくない。そう考えてしまう自分自身のことも嫌だった。苛立ちが募る。
巌は無言で何かを待っているようだった。このまま帰してくれる様子ではなかった。
しばらくして、仕方なく啓太は言った。
「やっぱり……送ってもらっていいですか」
「いいわよう! もう! あたしには遠慮なんてしなくていいんだからね。啓太ちゃんはあたしの子供みたいなものなんだから。……暗くて危ないわよね。手をつないであげようか?」
「いや、いいです……」
「んもう! じゃあ行くわよ」
そう言うと、巌は啓太の先を歩きだした。
目の前の背中は見上げるほどで、その大きさに啓太は驚かされた。こんな風に後ろ姿を見たことはなかった。いや、あったのかもしれないが記憶の中には無かった。肩の筋肉は膨らみ、ジャケットの上からでもその形がわかるほどだった。これなら少なくとも暴漢や酔っ払いに絡まれる心配はなさそうだった。絡むにしても相手を選ぶはずだ。黙っていれば、巌はとんでもなく強そうなのだ。
啓太は巌の隣に並ぶとうつむいて歩いた。会話はなかった。
そういえば、見たかったドラマはとっくに終わっている時間だった。