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 女の子は杖で何度か山本を突いて完全に気を失っていることを確認すると、啓太のところへ戻ってきた。首をかしげて見つめている。

 ああ、やっぱり可愛い、と啓太は思った。

「こっちの人も超能力者っぽいんですよねー」

 女の子はぶつぶつつぶやいている。

「とりあえずやっちゃいましょう。ええい!」

 掛け声とともに、女の子はものすごいスピードで杖を振り上げていた。抵抗する暇はない。すぐさま杖が振り下ろされた。ようやくその瞬間、あっ、自分も殴られるんだな、と思った。そして意識がなくなった。


 目を開けると真っ白な部屋の中だった。壁も天井も床も白い。照明の光が反射して部屋全体がぼんやり光っているように見えた。教室よりも少し広いくらいの大きさで、啓太に近い側の壁にはドアがいくつか並んでいた。ドアはベージュ色をしていた。

 啓太は首を振った。頭がずきずきしている。首筋が痛い。女の子に殴られて気絶している間にここへ連れてこられたらしい。

 周りを見回すと山本が倒れていた。傍らにはカバンが落ちている。山本はただ倒れているだけではなく、鎖でぐるぐる巻きに縛られていた。動く様子はない。動けるようでもない。「おい、大丈夫か?」と駆け寄ろうとして、啓太は気付いた。自分も縛られている。動けない。

「気がついたようですね」

 さきほどの魔女の格好をした女の子が啓太の視界の外から現れた。その後ろから、もう一人別の女の子がついて来ていた。

 こちらの女の子も変わった格好をしていた。鎖を体に巻きつけている。だが啓太たちのように縛られているわけではなく、ただ巻きつけているだけのようだった。鎖の下は赤い革製の水着のような服で、靴はピンヒール。女王様という単語が啓太の頭に浮かんだ。

 女王様風の服装はともかく、そのほかは普通の女の子のように思えた。ボリューム感のあるボブカット。二重瞼の大きな目にすらりとした鼻筋。薄い唇。まだ少し幼さが残っていた。

 啓太の視線に気づいたのか女王様は目を細めた。視線を合わせながらじゃらじゃらと鎖を動かす。それからゆっくりと見せつけるように舌なめずりをした。舌がまるで別の生き物のように動き、唇に跡を残していた。口元には笑みが浮かんでいるが、そこに感情がこもっている様子はない。そうしてじっくりと啓太のことを観察し終えると、まるで最初から誰もいなかったかのようにすました顔になった。もう啓太のことは眼中にないようだった。完全に無視されてしまっていた。本当に自分が消えてしまったような気分になった。

 先ほどの感想は取り消さなければならないようだった。どうやらこの子も普通ではないらしい。これは初対面の人に対する反応ではない。

「おい、いったいなんのつもりだ? ここはどこなんだ? 人のことを縛ってどうする気だ?」

「うるさいですねー」

「うるさい……じゃないよ! 当然の質問だろ!」

「あーはいはい、ちょっと黙っていてください。あなたは後回しです」

 魔女が杖の先を啓太にむけた。反射的に身をすくめてしまう。

 啓太の前を通り過ぎて、二人の女の子は山本の前で立ち止まった。女王様が鎖を引き、山本の顔を上げさせる。魔女が言った。

「あなた、超能力者ですね?」

「ち、違う」

「あなたは超能力者で、しかも超能力を悪用しましたね?」

「なんの話かさっぱりわからない。本当だ。知らない」

 山本は首を振る。

「証拠があるんですよ。ほら」

 魔女が山本のカバンを開けた。カバンの中には啓太の高校のジャージが入っていた。Tシャツや靴下も入っている。しかし山本のものではないようだった。すべて女子用だ。一つずつ取り出して山本の前に並べながら魔女が言った。

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