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 国語の教科書は明日の授業で必要だから持って帰る必要はない。数学は宿題で使うからカバンに入れておこう、と教科書を選別しているうちに、ふと窓の外が気になった。特に理由はない。

 窓が開いていた。夕日が差し込んでいる。

 よく見ると窓枠のところに、握りこぶしほどの大きさの物体が置かれていた。これはおにぎりだろうか、と啓太は思った。そう見えたからだ。おにぎりのような物体はいつの間にか二つに増えていた。人間の肩幅ほどの間隔で置かれた二つのおにぎりのちょうど中間の地点に、今度は黒い三角形が現れた。三角形はどんどん上にのびていき、それにつれて底辺が広がり、巨大なものになっていく。啓太が唖然として見ていると、三角形の底がさらにぐんと広がり、その下から人の顔が現れた。女の子の顔だった。

 ここでようやく啓太にも理解できた。女の子が窓から校舎に侵入しようとしているのだ。窓枠に手をかけ、よじ登っている様子を教室の中から見ればいまの光景になる。二つのおにぎりは窓枠にかけられた女の子の手。三角形は頭にかぶったとんがり帽子だ。

 なんとか窓枠を乗り越えた女の子は「んしょ」とつぶやいて着地すると、教室を見回した。どうやらクラスメイトではないようだった。顔に見覚えがない。

 大きなとんがり帽子に肩が丸見えのキャミソール。ふりふりのミニスカートから突き出した棒のように細い足にはハイソックス。肘までを覆う長い手袋。女の子の服装は色の濃淡こそあれ黒で統一されていた。これで杖でも持たせたら魔女だな、と啓太は思った。啓太がそう思うのを待ち構えていたかのように、女の子は背中から杖を取り出していた。

「みなさんこんにちは!」

 女の子が言った。教室にはこの女の子を含めても三人しかいない。

「私は新しい人類への進化をサポートする超能力規制委員会の者です」

 言いながら、女の子は啓太のほうへ歩いてきていた。

「あなた、超能力者ですね?」

「えっ? 何のこと?」

 わけがわからなかった。魔女の格好をした知らない女の子がいきなり超能力の話を始めたのだ。啓太は口ごもった。女の子を見つめ返すしかなかった。そして思った。この女の子は可愛い。近くで見るとそれがよくわかる。黒で統一された服が白い肌に似合っていた。顔は手のひらほどの小ささ。前髪からのぞく瞳はキラキラと輝き、長いまつげがその周りを縁取っていた。瞬きをするたびにバチバチという音が聞こえてきそうだった。

「超能力者ですよね?」

「いや……違うけど……」

「ふーん? 本当ですかねー?」

 首をかしげて女の子は山本のほうへ向かっていってしまった。もうちょっとじっくり見てみたかったな、と啓太は思った。後ろ姿に見とれていた。

「あなた、超能力者ですね」

 女の子は山本にも同じ質問をした。

「な、何言ってるんだ。俺は、違う」

 山本の反応はおかしかった。

 女の子は「問答無用です!」と叫ぶと、手にした杖を振り上げた。

 杖の材質は木のようだった。長さは1メートルほど。ごつごつとこぶを作りながら先に行くほど膨らんでいる。先端部分は人の頭ほどの大きさで、丸くなっている。女の子はその丸い部分を山本の頭部に振り下ろしていた。一瞬の出来事だった。鈍い音が響く。思わず啓太の口から声が漏れる。

 山本は動かなくなっていた。血は流れていないが机に倒れ込み、腕を力なく垂れ下げていた。

 なんなんだ、これは、と啓太は思った。自分は恐ろしいものを見ているのではないだろうか。逃げたほうがいいのだろうか。普段なら「わー!」と叫びながら走りだしているところだが、あまりにも突然のことで体が反応しない。窓から女の子が入ってきた辺りから啓太の思考はほとんど停止していた。動けずにあっけにとられていた。

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