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良い組み合わせを探しましょ(後編)

「やっとついた、広いのはいいけど遠いのよね~。ここ」

「そうですね、贅沢な悩みだとわかってはいるのですが」


 かしけんの部室は旧校舎にあるため、実は割と歩く必要がある。まぁ、ここだからこそ広く使えるのは間違いないので学校側に文句はない。


「ここよりも古い旧校舎もあるらしいのです、そっちの方が行ってみたいですぅ〜」

「ここより遠いのはゴメンだぜ」


 瑠琉さんが目を輝かせながら言うが、ぼくもこれ以上遠いのはしんどい。校舎丸々一つ使えたとしても、だ。月緒の感想はみんなの思いと一致している。


「とりあえず、入りましょうか」


 おしゃべりに夢中になっていると、銀妃さんが切り出してノックして扉を開ける。ぼくと恵さんは一瞬、警戒して身体をこわばらせる。癖になっちゃった……。特に何事もないので本当に意味のない警戒だ。


「こんにちは〜」

「失礼いたします」

「お疲れ様です」


 各々がそれぞれ挨拶しながら部室に入っていく。すでに先輩方も到着しており、リアクションも返してくる。個人的に昨日の全体自己紹介の次の日はぎこちなくなるかな〜なんて思ってたが特にそのようなこともなく。


「おぅ、相変わらず団体さんだな。とりあえず座っててくれ」


 すでに卓上には棒状のビスケットにチョコを塗ったアレ……チョコとビスケットでチョビッキーみたいなやつがお皿に広げられていた。カラフルチョコレートも混ざって見た目も良い。


 さて、どこに座ろうか。見渡すと、今だに話したことのない司馬先輩が目についた。顔が見えにくいほど髪の長い先輩。自己紹介は確か……。


『……司馬、琵優。……よろしく』


 と言いながらすごい笑顔を向けてくれたっけ。口元だけしか見えないから正直怖かったけど。身長もけっこうあるからさらに怖い印象がある。


 しかし、それは見た目だけの話である。趣味やら何やらは紹介してくれなかったし、本人の人となりは話してみなければわからない。話してもわからないことが多いのだから話しかけるべきなのだ。


 そんなわけで恐怖を物ともせず、隣に着席した。後は話しかけるのみである。これまで何度か挑戦したができなかった。ついに話せるタイミングがきた、よし、何から聞こう。なんて話しかけよう。


……アレ? 話す気満々だったのに何も言葉が思い浮かばないゾ? チラと司馬先輩の方を見るが、自己紹介すらあの情報量。自分から話し出す気配は当然のようになかった。ぼくだけが焦る沈黙が続く。対面では静穂先輩と友希江さんが楽しそうにおしゃべりしている。


「基礎練習だけだと不安になりますね」

「相手がいた方がより感覚を掴みやすいだろうね。それなら良い所を紹介するよ、東海林道場なら週何度か剣道の練習ができる。大人が多いのだが、高校生もたまに見る。私も練習相手がいるならありがたい。ぜひ一度一緒に行ってみないか?」

「それは助かります!」


 東海林……微風さんの名字と一緒だな、なんて呑気なことを考えている場合ではない。なんとか話題を——ハッ! そうだ、趣味の話題にしよう。自己紹介じゃ何も伝えなかったが、だからといって趣味がないということもないだろう。なかったらなかったでそれを話題にすれば良いし。当たって砕けろ、だ!


「あ、あの。司馬先——」

「拓斗くーん! お待たせっ」


 ぼくらが座っている机は長方形の、ちょっと詰めれば片側3人入るタイプだ。それを2人でゆったり使っているのだが、丹色先輩はぼくの空いてる方の隣に入り込んできた。おかげで話しかけたはずの司馬先輩は全くこちらに気づく素振りがなかった。顔が隠れてるからよくはわからないけど。


「あ、あの司馬——」

「響拓斗ォ! ……はいますか?」


 ダンッ! と扉が勢いよく乱暴に開けられ、ぼくの名前が部室に響く。乙芽先輩の登場だ。ぼくを含めたほぼ全員が一瞬入り口に注目する。改めて司馬先輩を見ると、やはりというべきかこちらに気づく気配がない。 


 くっ、このまま一生話しかけられないのか? 喉に刺さった小骨にも満たないわずかな違和感ではあるが、気になるものは気になるのだ。


「ねぇ、拓斗くん。今日は何するのかな」

「さ、さぁ」


 最高学年であるにも関わらず知らないのなら、ぼくが知るわけない。あれ、そういえば3年生なのになぜ丹色先輩は部長じゃないんだろう。あ、部活を作ったのは部長たちだからか。それなら入った理由は……。


「よし、それじゃあ今日の全体活動を始める。各自席に着いてくれ」


 しまった! 別のことに気を取られて司馬先輩に話しかけられなかった……。まぁ、まだ今日の活動が終わったわけではないし、チャンスはあるだろう。あるよね?


「今日はね、火曜日にするドッジボールのチーム分けをしたいの」

「うおおおお!!!!」

「火曜日に決まったんですね」

「体育館がたまたま空いていて、できそうだったのよ」


 凄まじい爆音で雄叫びを上げる善奈さん。耳はキーンとなったが、まぁ良かったねというほっこりした気持ちになる。


「分かれたチームで話し合いをしてもらって仲を深めてくれたら嬉しいわ」

「それじゃ、適当に分けるぞ」


 適当なのか、みんなで話を聞くからてっきりドラフトとかだと思った。1年生の実力が未知数だから適当と大差ないのはそうだな、と自己解決した。


「えーっとぉ、ハツとルルは一緒にしないといけなくて……」


 適当は適当でも何やら考えてきてくれたみたいだ。配慮助かる。


「にぃは拓斗くんと同じチームがいいなぁ、でもボールを当てるのも気持ち良いかも」

「えぇっ……」

「なんてじょ〜だんっ。一緒がいいね」


 冗談の顔じゃなかったし、ぼくにボールを当てられるという自信があるのも悔しいしで思わず困惑の声が出てしまった。


「響くんはドッジボール得意かい? 私は……いや、私の話はまだいいね。どうもこういう話し方の癖が抜けなくて頑張ってみようと思うのだが口が止まらなくて」

「響くん、答えてあげてください」


 前の席に座る静穂先輩が話しかけてくれた。話が止まらない印象の静穂先輩だが、どこかで指摘されたのか頑張って短くしようとしていた。まだ上手く話を切れず、事情を聞いたのであろう友希江さんがさらっと助け舟を出してくれた。なんてスマートなんでしょう。


「ぼくはあんまり……お二人は?」

「私は体を動かすのは好きだがドッジボールの経験は小学生以来だ。ボールも体育以外じゃ触らないしどうだろうね」

「私も小学生以来ですね」 


 まぁそんなもんだろう。中学ですら盛り上がる人間の方がやや少ないくらいだったのに、高校生ともなれば……。善奈さんはよほどドッジボールが好きな人間なのだろう。


「……あまり好きじゃない」


 ぼそっと、だが、しっかりと聞こえる低い声。このテーブルの全員が肩をビクッとさせた。まさか話題に入ってくるなんて、そう驚いた。……声を発した本人もこちらの反応にびっくりしていた。


「えーっとぉ〜、何ちゃんだっけ?」

「……」



 丹色先輩は遠慮なく名前を聞いた。ということは、司馬先輩は去年からのかしけん組ではないのだろうか。それともしょーもない身内ノリか。そんないじめみたいなことしてほしくないので後者はないと信じたい。


「……司馬、琵優」

「あぁ! 琵優ちゃんね」

「……」


 なんだか気まずい。どんよりと重い空気ではなく、次にどう切り出すかという読み合いの空気。何かないか——。


「あっ!」

「どうしたの拓斗くん」

「ぼく、響拓斗です。よろしくお願いします」

「……」

「……」

「……知ってる」


 ぼくはこのタイミングだ! と思い、伝えたかったことを伝えた。脈絡とかもうどうでもよくって、いい加減ちゃんと挨拶したかったのだ。答えは沈黙で、さすがに失礼だったかと自分よがりな考えに反省して黙っているとまさかの答えが追加された。知っててくれてよかったと捉えよう。


「よし、チーム分けができたからホワイトボード見てくれ」


 注目するとAチームとBチームに分かれていた。Aチーム大将、蒼井珠洲巴。Bチーム大将、磨屋初音。ぼくはAチームになっていた。


「それでは、Aは手前、Bは奥で別れましょう」


 真理先輩の案内でみんながぞろぞろ動き出す。現在、かしけんは総勢35名の大所帯。1チーム17人。真理先輩が審判を務める。まさかこんなにいるなんてね……。野球でもサッカーでも何でもできそう。


 さて、改めてメンバーを確認する。3年のAチームは、佳暖先輩だ。3年は2人だけしかいないので、もう片方の先輩は必然的にBチームであろう。つまり……。


「拓斗くーん! 覚悟しておいてね〜!」


 遠くから手を振ってぼくをターゲット宣言する丹色先輩。そう、丹色先輩がBチームになるのだ。怖い。


 そして、2年生のメンバーはアリーシャ、美衣子、綾、玖留実、心愛、琵優先輩と、部長、そしてリーダーの珠洲巴先輩だ。部長と綾先輩、玖留実先輩はまぁ話しやすいかな。他のメンバーはまだかなり緊張してしまう。琵優先輩なんか今日話し始めたばかりだし。


「響拓斗ォ! 勝負ですわ!」

「拓斗くーん、よろしくね」


 乙芽先輩と潤乃先輩がわざわざ向こうのチームから話しかけてくるあの先輩たちもBチームか……怖い。


 最後に同級生、つまり1年生のメンバーは睦喜、鏡華、恋、恵、縫夜、善奈、グリゼルダさんだった。同じクラスの子もいるが、そこまでおしゃべりしたことない子だ。枝美里や月緒、施璃威さん辺りがいれば気も楽だったのにと思う。何せアリーシャ先輩含めて海外組勢揃い。ある程度言語が通じるとはいえ、コミュニケーション能力が試される。


「セリと分かれたかァ。まぁ、いいケド」


 恋さんはそう呟いた。よく一緒にいる2人も離れているので部長たちが色々考えてチーム編成してくれたのだろう。ここはこんな機会を用意してくれた部長らのためにも頑張ろう、そう気持ちを切り替える。


「よーし、じゃあ顔合わせを始めよう!」

「実際に集めてみるとおもしろい集まりだな」


 珠洲巴リーダーが早速音頭をとる。部長は自分で選んだくせな他人事だ。


「よろしくお願いするっす!」

「善奈ちゃん、期待してるよ!」

「はいっす!」


 ドッジボール発案者の善奈さんは気合い充分。これは心強い。


「これならわーしも楽できそうだ、ありがたいね」

「たしかにィ、これラクショーなんじゃネ?」

「い、いやぁ。相手はあの“はっつー”だしランちゃんいるし……」

「そうっす! 油断できないすよ!!」

「よっしゃあ! 頑張ろ!!」


 やる気のあるメンバーがいたことで思い切り気を抜こうとするメンバーもいたが、相手は運動部に引っ張りだこの初音先輩。それだけで気は引き締めなければと、善奈さんも大声でそう言っている。そこに元気な声で追従する縫夜さん。声の大きさだけでAチームは運動部のノリとテンションに引き摺り込まれそう。


「まぁまぁ落ち着いて、今日はいないメンバーもいるし作戦会議じゃなくて顔合わせが目的だから」

「園浦さんとくるみんがお休みだね〜」


 綾先輩は割とあだ名を使うが、心愛先輩は名字呼びだった。すごい距離のある感じが不意打ちになり吹き出しそうにだった。


「それじゃ、それぞれどれくらいドッジボールできるかでも話してみるか」

「そうだね、それじゃあまずリーダーの私から! 避けるのは得意です、ほかは人並みかな〜。次は佳暖先輩!」

「ふむ、好きじゃな……いや、あまりやらないね」


 佳暖先輩は明らかにやる気もなくドッジボールが好きじゃなさそうというのはなんとなくみんなわかっていたが、善奈さんの燃える瞳の前では皆まで言えず。言葉を変えさせられた。すごい熱量だ。


「そんなにやらんが不得意でもないな。リーシャは?」

「ソンナニ、ヤッタコト、ナイデス」

「まぁ藤堂さんの瞬発力ならなんとでもなっちゃうわよね」


 忍者のように機敏なアリーシャ先輩。あのスピードならかなりの活躍が見込めるだろう。部長もよく身体を動かしているし、この2人は戦力に違いない。


「お次はみい……は置いといて、綾……は自信なくて、じゃあ司馬さんだね」

「……あまり」

「OK! 苦手組多いけど頑張ろ、上級生!」


 名前を呼ばれた美衣子先輩は伏せていた頭を上げたが、何の話? と言いたげなキョトン顔、綾先輩はすごい早さで反応し、首をぶんぶん横に振る。琵優先輩もドッジボールに前向きな感じではなく、戦力らしい戦力は現状3人。


「お次は1年生、ドッジボールは得意かな? 響くんからどうぞ」

「はい。ぼくはあまり得意ではないです」

「すみません、私も得意ではありません」


 ぼくに追従したのは鏡華さん。体育の時、疲れてたっけ。枝美里や月緒、瑠琉さんも疲れて合流したけど、微風さんと銀妃さんは余裕そうだったな。あら、戦力が2人向こうに……。


「それじゃあ次は……」

「ハイ、ウチはドジボ、マジイケますケド」


 ドジボ? 聞き慣れない言葉に全員の反応が鈍るが、話の流れですぐにドッジボールの略かと理解する。……ということは戦力なの? 見た目は金髪ギャルなので、運動できるの意外だ。見た目で人を判断してはいけないね。


「ボクもいけるぞ!」

「ヌィーヨも!」

「もちろん自分も!!」


 大きな声で元気はつらつな彼女らはもちろん運動もドッジボールも好きで戦力になってくれるはずだ。元気印の縫夜さんに熱血の善奈さん。あれ、あと1人声がしたような。


「ムツ、できるのか?」

「もちろん、ボクに任せておくれよ」


 精一杯に張った胸をトンっと叩く睦喜さん。発明好きでちびっこくて、どう見ても運動が好きそうではない。というか、できそうにもない。見た目で人を判断してはいけないと思ったばかりだが、睦喜さんに関しては疑いが晴れない……。こんな子が戦力になる……それが本当なら自分が情けなくなっちゃうよ。


「恵ちゃんはどう?」

「私はそんなに……」

「ゼルダちゃんは?」 

「……アー、チョット?」


 恵さんは本気で無理というよりは謙遜している感じだった。グリゼルダさんも指でチョットのサインをするところにかわいさ……いや、余裕を感じる。


 ひょっとして、勝てるのでは? 不安はぼくを含めて結構あるけれども。


「それじゃお互いの事知れたし、あとは自由で~」


 結局いつも通りの時間に戻る。相手チームはまだ話を続けているし、せっかくだからチームメイトともっと話してみよう。そう思って目をやると、綾先輩と目が合った。


「大変なことになっちゃったね」

「そうですね」


 心の底から嫌なわけではないが、さりとてドッジボール、というか運動がしたいわけではない。そんな気持ちが伝わってくるトホホ顔。気づけば互いに苦笑いを浮かべていた。


「でも、楽しみな気持ちもあります」

「ウチもそうだよ? やるからには勝ちたいし」

「あっ、目が変わりましたね」

「ゲーマーですから」


 先ほどまでは乗り気でなかったはずなのに、綾先輩の目にはいつの間にか闘志が宿っていた。勝ち負けへの並々ならぬこだわりを感じさせる、勝負とあらば内容は関係ないのだ。って、それはただの負けず嫌いなのでは? と思ったのはナイショだ。


「ただ相手がなぁ。やっぱ強そうだよ」

「仲間を信じましょう」

「……ここは『ぼくに任せて』くらい言ってくれても良くない?」

「苦手なので」


 綾先輩はふっ と力無く笑う。幻滅させちゃったかな? ……任せてなんて言える実力も度胸もないから仕方あるまい。


「ビッキーさァ、もっとシャキッとしてくンない?」

「こりゃ手厳しいですな」

「そうゆう水守先輩もだから。負けられナイから」


 綾先輩以上の闘志を胸に瞳に宿した恋さん。そんな熱血系だったっけ? 第一印象はむしろダウナー系だったような……『あやや』への愛を除いて。


「目が覚めたよ、たかがドジボなんかじゃナイ。魂のぶつかり合いなンだって、善奈ちが言ってたんだワ」

「あー、ね」

「チョ、先輩返事テキトーすぎ。モット熱くなれヨ!」

「これは……影響受けてますね」

「ねー……」


 どうやら恋さんは善奈さんから熱意を受け取り燃え上がっているようだ。その輝きはまぶしく、熱さは……うっとおしい。


「まさかレンがこんなにやる気を出すなんてな」

「これだけの熱意があるならかしけんも安泰だね」


 部長も副部長も感心しているが、立ち位置はテーブルをいくつさ挟んでいる。2人もうっとおしいと思ってるんだなぁと。綾先輩は安全圏から見守っている2人を睨みつけてるし。


「ギャルな上に熱血なんて……」

「まぁ、色々と頑張りましょう」


 先行きはまた不安になりつつあるが、真理先輩の合図で顔合わせは終了となり帰り支度が始まる。


「これ、本番どうなると思う」


 部室を出て間も無く、恵さんが話しかけてきた。かしけんなのにドッジボールだし、チームメイトは熱血だしで不安なのだろう。同じ気持ちだ、未来が見えない。


「お菓子以外はいいかな、なんて思っていたけどちょっと楽しみね」

「うん、不安だよね……って楽しみ?」


 なんてこったい予想が外れちゃったよ恥ずかしい。


「確かに、みんなで何かするなんて不安だけどさ、でもそれ以上にわくわくするんだ。なんだか私も影響受けたみたい」

「それは、良い影響だと思うよ」


 この前の遠慮しがちな態度から一変、共に楽しもうとするその姿勢は堂々としている。憑き物が取れたかのような今の彼女となら安心して高校生活を送れそうだ。


「そういえば、明日はお菓子作りだっけ。期待してるね」

「お手柔らかに」


 料理の腕をベタ褒めされて潜れるほどに上がったハードル。さっきまで忘れていたのを思い出してしまう。しかもまた少し上がった状態で。


「恵さんもお菓子作りがしたかったなんて期待しちゃうよ」

「私はあんまり自分では作らないから……」

「自分では?」

「親が作るのよ、そういう仕事」


 恵さんの家はお菓子作りに関係あるのか、そしたら心愛先輩たちもなんか関係してるのかな?


「あ、それじゃ私はこっちだから」

「うん、じゃあまた明日」

「また明日」


 気がつくと駅前だった。先輩方にも挨拶をして別れる。


「明日はとっても楽しみね」

「私も拓斗のお菓子久しぶりだから楽しみ〜」

「頑張って作りますよ」


 そうは言ってもクッキである程度のおいしさより先となるとかなり難しい。特にこだわりのないいつもの作り方で満足してくれるといいけど。


 二人はチーム会議から笑顔が続き、別れ際までにこにこだった。早くも仲が深まったようで何よりだが、そんなことを気にしてられないほどのプレッシャー。結局、寝ようとしても心配の波が押し寄せる。寝ているのに眠れない感覚。夢と現実の狭間に取り残された感覚になりながら、今日のことを振り返る間もなく朝を迎えた。決戦の日、そんな感じだ。


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