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流るるは情熱の赤(後編)

本話は10話の後編となります。

「すっごーい!命中!!」

「おーい、タク、大丈夫か?」

「ぶはっ!」


 視界が白で覆われた後、暗転して口も塞がれた。何かが飛んできたことはわかったが、そこから先はパニックで覚えていない。


「た、拓斗、すごいことになってるわよ」

「ちょっと羨ましい気持ちも……」


 こんな苦しい目にあっているのに羨ましい……?微風さんの意図がすぐには掴めなかったが、口の中に広がる甘みに気付いてからだんだんとわかってきた。

 いちごジャムと生クリームじゃん!

 どうやらパイが飛んできたようだ。埋まった視界を拭き取り、改めて確認すると、小型の投石機のようなものが置かれている。


「や、やっぱりここはまともな部活じゃない……」


 怯えた顔で後ずさる梁木さん。その姿でぼくは完全に思い出した。2回くらい部室の前に来ていたあの娘だ。慌てて走る姿しか見ていなかったが、梁木さんはかしけんに来ようとしていたのだ。


「ま、待っつて、わなぎさん」


 パイでうまく喋れない。その間にも梁木さんは離脱の構えに移行していく。あぁ、せっかく何回も来てくれたのにこんな終わり方なんて。


「ダメでしょお、そんなに動いてパイが落ちたらもったいないじゃない」


 先ほど命中を喜んでいた無邪気な声。聞き覚えのあるその声を部室で聞くのは初めてだ。なんせ朝聞いたばかりなのだから。ぼくを困惑させたあの人が、今度も後ろから体重をかける。そして、今度はぼくの顔を一舐め——ってええええ!?


「んっ、甘くておいしっ」


 正確に言えば僕の顔に付いた生クリームを舐めとったのだが、それでも驚きだ。今朝のハグといい今回といい、その大胆な手法は、ぼくの心を掻き乱すのに十分すぎる。

 部長や真理先輩はあ〜あと困り顔。一年生は皆、呆気に取られている。梁木さんも立ち尽くす。


「あ、え〜と。その……」


 枝美里が何か言おうとしているが何も言えていない。ここだけ流れる時間が遅くなったのではと思うくらい何も進まない。いや、時だけが過ぎている。1時間くらいたったかな? と思うころ、一年生の後ろに人影が。


「おい、こんなとこで何突っ立ってんだ?」

「あら一年くん。素敵なお化粧ね」

「あ、ジャム美味しい?」


  心愛先輩と時環先輩、桃先輩だった。心愛先輩は梁木さんの肩に手を置き、自然な形で中に入れた。



 あれから僕はパイの食べれそうな部分を片っ端から頬張った。その姿を朝の先輩が見つめてくるので、蛇に睨まれた蛙の気持ちだった。隣で枝美里が視線を使った牽制をしてくれなければ食べられていたかもしれない。

 そんなことをしている間にみんなが集まってくる。今日は静穂先輩が来たので、ぼくの惨状を見て話を聞いた先輩により、早速お説教が始まった。


「全く、こんな食べ物を粗末にするような真似をいきなり響くんにするなんて。一体どういうつもりなんだ。西園寺さんがついていながらこんなことになってしまうなんて。響くんには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。本当に申し訳ない。北村先輩にはしっかり反省してもらって謝罪を——」

「ちょっとぉ、丹色ちゃんっ! って呼んでって言ったでしょお?」

「怒る時は呼びませんと前にも言いましたよね? 怒られている自覚はありませんか? そもそも北村先輩は——」

 

 長々と話す静穂さん。しかし、北村先輩はどこ吹く風といった面持ち。静穂先輩の先輩ということは三年生なのだろう。上級生の余裕をこんな形で見たくなかった……。あれ? そういえば、三年の先輩って珍しい気がするな。


「たーくんごめんね、いきなりびっくりしたでしょ」

「はい」

「パイ投げ装置をリーシャに頼んだんだが、ニィに見つかってな……あんな風に改造された挙句、試し撃ちまであっという間だった」


 なんでパイ投げ装置を? という疑問はスルーして、ぼくは一番気になった質問をする。スルーした疑問はなんだか時期にわかる気がした。


「ぼく以外に当たったらどうするつもりだったんですか」

「ニィはなんにも考えてない、そういう人間だ」

「えぇ……」


 割とイタズラ好きな先輩が集まったかしけんでも無差別型はいなかったので新鮮だ。いない方が良いというのは置いておく。


「でも、悪い人でもないのよ。後でまた話してみてちょうだい」

「そう、ですか?」

 

 真理先輩の言葉は素直に飲み込めなかった。これまでがこれまでだからだ。今も静穂先輩のお説教を聞きながら枝毛を探してるし……。


「さて、今日も初めて来てくれた子がいるから自己紹介してもらいましょう。名札を用意して」


 真理先輩の合図で全員が動き始める。前に出ることになったのは、梁木さんと北村先輩だった。さすがに仮入部期間最終日に何人も来るようなことはなかった。1人来ただけでも驚くことだろう。まぁ、帰ろうとしてたんだけど。


「あ、ちょっと待ってね。え〜とぉ、いた! 今日の主役を迎えに行ってくるね」


 北村先輩は、窓の外まで駆けた後、誰かを見つけて部室を出て行った。すごく自由だ。本日の主役というのはどういうことだろう。なんにせよ、ぽつんと1人残された梁木さんは不憫である。


「あ、えーと、梁木恵です。よろしくお願いします」

「ん、なんか見たことがあるな」


 頭を下げた梁木……恵さんに部長が興味を持つ。部長も2回は見ているし、ぼくが来る前に接触していたかもしれない。


「梁木さんはかしけんでしたいことはあるかしら」

「えっと、お菓子が作りたくて。調理部行っても全然お菓子作らないし……」


 恵さんの話を聞いて部長や真理先輩がにこにこしながらこちらを見る。ぼく以外にもお菓子作りに興味のある部員が何人かいれば継続して作れるかもしれない。そう思うとぼくもにこにこ顔になってくる。口角が上がっているのを自覚する。


「よし、じゃあ早速グループに——」

「ま、待ってください……」


 珠洲巴先輩の話を遮り、恵さんは待ったをかけた。どうしたんだろうという空気が広がる。ぼくは先ほどのことや今までのダッシュのことから、入部を迷っているのだと感じた。それもそうだ。部長らに悪気はないとはいえ、歓迎としてはかなり手荒いものだろう。恵さんにとっては門前払いであったのだ。


「……まだよくわかっていないので、後でもいいですか」


 珠洲巴先輩はわかった! と元気よく返した。恵さんの言葉は社交辞令か本心か。本心ならばまだチャンスはある、お菓子作り仲間を増やすためにも積極的に動かなければ! 無論、先輩方を反面教師にして、ね。


「はーい! お待たせ〜。本日の主役、あ、新入生ちゃんいたから2人目の主役ね」


 ノックもせずに扉を開けながら北村先輩はそう言った。後ろには見覚えのない女生徒が。またクラスメイトだったら……なんてすこし思ったが、流石に同じ間違いはしない。紛れもなく知らない。


「あ、あの、お久しぶり、です」

「そんじゃあ自己紹介するね!」


 お久しぶりということは先輩なのだろう。可愛らしい身体を小さくさせて縮こまるような姿は小動物を思わせる。茶色くほどよい長さの髪をきれいに切り揃え、可愛らしさに拍車がかかっている。


「北村丹色です、よろしくお願いしまぁす!」


 元気よく挨拶する北村先輩。ニイとは丹色のことだったんだ。連れてきた女生徒とは正反対の活発さ。今までの行動にぴったりのやんちゃさを感じさせる派手な金髪をぶんぶん振り回す。


「にーちゃんはかしけん唯一の3年生なのよ」


 真理先輩の命名法則からすればそうなるのだが、にーちゃんだとお兄ちゃんみたいだ。まぁ、今更な気もするが。呼ばれた本人は全く気にせず話出す。


「にぃは3年生なのに今まで何もできなくてごめんね、そのお詫びに連れてきたよ」


 丹色先輩の視線を辿れば、連れてきた娘がいる。彼女は多くの視線におどおどしている。


「あ、えと……」


 しばし沈黙が続く。それは数瞬ではあるが、体感は1時間に感じるほどだった。なんで彼女が連れてこられたのか全くわからない1年生にとって、彼女の発言は疑問を氷解させる唯一の手段、なので待ち望んでしまうのだ。


「……浜川潤乃、です。よ、よろしくお願いします」


 潤乃先輩は居心地が悪そうに斜め下を向いたまま挨拶をした。うーん、名前しかわからん! 1年生の疎外感をわかってくれたのか、部長が説明をしてくれる。


「ルノはちょっとな、まぁ事件があってしばらくかしけんに来れなかったんだ」

「事件?」

「……文化祭でモメたんだ、ちょっとな」


 いつも話してくれない出来事のことだろうか。詳細はわからないが文化祭で起きたことを初めて知った。


「さ、て! それじゃあ1年ちゃんのことも教えてもらおかな!」

「そうですね、あとは自由にしましょうか」


 丹色先輩は早速友希江さんに声を掛ける。真理先輩の合図で全員が色々動き始めた。ぼくはお茶の準備を手伝おうとも思ったが、恵さんが気になったので優先することにした。せっかく仮入部してくれたならせめて良い気持ちで帰ってもらいたい。


「梁木さんはお菓子をよく作るの?」

「えーとっ、はい。家がカフェをやってて」

「ええ、いいじゃん! お手伝いしてるんだ」

「少しだけですけど」


 恵さんのところにはすでに珠洲巴先輩、露世先輩がいた。珠洲巴先輩がさりげなく距離を詰めている。警戒心を解くうまいアプローチ、さすが副部長! という気持ちになる。


「めぐちゃんとこはお菓子もコーヒーも美味しいよ」

「桃ち行ったことあるの?」

「ウチの果物使ってくれてるって聞いて何回かね〜」

「それで、梁木さんとは知り合いなの?」

「うん、だってココ……」

「桃、静かに」


 桃先輩は不満げながらも口を閉ざす。閉ざさせたのは心愛先輩だ。ぼくはもちろん、珠洲巴先輩や露世先輩だって理由が気になっていたはず。ずっと桃先輩を見ていた。だが、話してくれそうにない。


「恵とは縁があってな、それだけだ」

「心愛ちゃんは——」

「恵、“先輩”な」

「恐い先輩だねえ……」


 心愛先輩は恵さんにも圧力をかける。時環先輩は引き気味。一体どんな関係なのやら。


「まぁ、恵のカフェに行くならちゃんと前もって言うように」


 何故か仕切り出す心愛先輩。これ以上は聞き出せないと諦めた珠洲巴先輩が話題を変える。


「今までずっと調理部にいたの?」

「いえ、サッカー部とかも行きましたが……。はじめはここに来ようとしたんですけど、面接してたり、銃向けられたりで後にしようと。そしたらだんだん来づらくなっちゃって」

「銃?」


 露世先輩が最もな疑問を口にする。そりゃそうだ、ぼくも戸惑ったし。


「驚かせちゃって申し訳ないね、副部長として謝るよ。ごめん」

「あ、いや、謝ってほしいわけでは」

「もっと早く会えてたらかしけんの魅力を伝えられたのにって」


 かしけんの具体的な魅力は最初からいるぼくでもわからない。むしろこれからみんなで作ろうみたいな話じゃなかったっけ。まぁ、人は魅力的だけど。


「色んな部活を回ってどうだった?」

「忙しい割にやりたいことじゃないなって……」

「かしけんはさ、やりたいことやるとこだから。しっくりくるとこないならかしけんにしちゃいなよ」

「で、でも、なんか怪しいというか」

「大丈夫大丈夫、ちゃんと活動もするから!」


 珠洲巴先輩のやや強引な勧誘は続く。しかし、恵さんは落ちない。防御が硬かった。珠洲巴先輩1人ならこれまでだっただろう。だが——。


「一緒に部活動、楽しんでみましょ?」


 我らが露世先輩が妖艶に微笑む。優しさに溢れて吸い込まれそうな笑顔、慈愛のブラックホールやぁと言いたくなる。


「ま、まぁ。グループだけ……」


 押してダメなら包んでみる、チョキでダメならパーを出す2人の連携で、恵さんの牙城は崩れた。


「ありがとう! お菓子作る予定もあるからぜひ遊びに来てね!」

「一緒にできるなんて嬉しいわ」


 笑顔で逃げ道を塞ぐ2人。その連携はまさに阿吽の呼吸。これなら恵さんは大丈夫だろう。いや、来週なんか言われるかもしれないけど。


「ねぇねぇ、キミが響くん?」

「え、えーと、はい」

「アハ、朝のキミが響くんかぁ。パイびっくりさせちゃってゴメンネ」


 スッと背後から話しかけてきたのは丹色先輩。先輩方の誰かから話を聞いたのかぼくのことを知っていた。


「ちょっと怒ってる?」


 ぼくが黙っていると少し申し訳なさそうに上目遣いで聞いてくる。怒りの気持ちは確かにあるが、それよりも今朝の出来事の衝撃で、うまく話せないというか何を話したら良いやらで口が動かなかっただけなのだが。


「まぁにぃも少しやりすぎちゃったかなぁって、ごめんネ」


 顔の前で両手を合わせるあざとい謝罪ポーズ。こんなのでかわいいと思ってしまうのがくやしい。


「は、はい……」


「許してくれてありがと!」


 ぼくが恥ずかしさを誤魔化すためにほおを掻いていた右手を強引に掴み取りぶんぶんする丹色先輩。なんともパワフルな先輩だ。この押しの強さは見習うべきかもしれない。


「響くんはさ、お菓子作るためにかしけん来たって聞いたけど、それだけ?」

「それだけ、とは?」

「最初のうちはそんなもんだけどさ、何日も来てたら部活動の感想とかあるかなって」

「毎日楽しいですよ」

「大丈夫? 毎日来てるうちに無理してない?」


 部活動が始まってからずっと来ていると、習慣付いて深く考えてなかった。無論、毎回嫌な気持ちではなかったが。改めて考えてれば無理に楽しいと思っている自分がいるかもしれない。ただ、それでも。


「大丈夫です。ぼくは楽しんでます」


 この数日で出会ったみんな、短い間ではあるが、垣間見た優しさはとても魅力的だった。これから先もかしけんの一員として楽しめそうという確信めいた予感がそこにはあった。


「あっ、るーちゃん! 歩くときは足元を——」

「は、わわ、きゃああ!」


 瑠琉さんが懲りずにまた転びそうになり、それをアリーシャ先輩が素早い身のこなしで助けていた。楽しめそうというより、退屈しなさそうが正しいかな。苦労は多そう。


「うん、その顔なら大丈夫そう。これからもよろしくねっ!」


 またまたあざとく満面の笑みな丹色先輩。仕草がいちいちかわいい。自分をかわいく見せる術を知っている。これが年上の余裕ってやつなのかな。


「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」


 いつものように真理先輩が合図をする。全員がいそいそと帰り支度を始める。


「なんかこンだけいると狭くネ?」

「ほんとそう、結構広いと思ったんだけどなぁ」

「そうだよな、まさかこんなに増えるとはな」


 恋さん施璃威さんの愚痴に部長が乗っかる。かしけんの部室は一部屋分という響きから想像できる大きさの3倍ぐらい広く、教室一個分ありそうなくらいだった。これだけ広い部室でも、総勢30人近くなってしまうと活動場所としては狭く感じる。


「仮入部期間も今日で終わりだし、月曜日に人数確定したらまた改装しちゃおう」

「前と違ってだだっ広くはならなそうだもんね」


 珠洲巴先輩や丹色先輩の反応に、ぼくは戸惑う。え、もっと広かったの?


「ここは旧調理室で割と広かったんよ。北村先輩が完璧に壁を作って半分になってるけど」

「え、じゃあこの壁の向こうにもスペースが?」

「うん、15人で使うにゃ広すぎたかんねー」


 綾先輩が詳しく教えてくれた。そして、そんなに広かったのかと驚く。まさかこの広さで半分とは。本棚やら机やら畳やらを退かしてスペース確保するのかと思っていた。


「あの空間まで使うほど新入生が集まるなんて思わなかったわ」

「それもこれもタクをはじめにみんなが来てくれたおかげだ、ありがとう!」


 真理先輩も部長も感慨深そうな顔。初日が3人だったことを考えれば当然か。活気が溢れ出るほどになったかしけんのこれからに期待が高まる。


「おい、さっさと出ようぜ」

「ちょっと待ちなさい園浦さん。その制服の着方は目に余る。どうしてそんな中途半端な着方をするんだ、着たいのか脱ぎたいのかはっきりしたらどうか。それだと制服が伸びてみっともない形になってしまう。せめて肩から羽織れば……」

「はいはいわかりましたよ、ったく、毎度毎度……」

「毎度毎度はこちら——」

「だぁぁぁ!脱ぎゃいんだろ!」


 心愛先輩は肘まで通した制服を勢いよく脱ぎ、そのまま片方の肩にスパン! と掛けた。そんな扱いしたら結局シワになるだろうにと思ったが、触らぬ神に祟りなしだ。


「お静の小言は全然小さくねぇんだよな……」


 ぼそりとつぶやく心愛先輩。その豪胆さで周囲を圧倒しっぱなしなのかと思っていたが、通用しない相手もいるみたいだ。


「ももたちこっちだから、またね〜」


 そう言いながら桃先輩と心愛先輩は校門から山の方に帰っていく。


「いやぁ、明日から休みか……そだ! 響くん、明日暇?」

「ん、はい。予定はないです」

「んじゃさ、ゲームやらん?」

「あぁ、例のやつですね。ぜひ!」


 駅まで向かう途中で綾先輩から誘いを受けた。以前話をしたゲームのことだろう。枝美里以外とゲームをやるのは小学生以来だ、田口がサッカー命になっちゃったから……。


「んじゃ、詳しくはまたメッセ送るから」

「楽しみにしてます」

「私も楽しみにしてます!」


 ぼくの背後からニュッと現れる枝美里。枝美里も一緒なのか、嬉しいような残念なような。


「はいはい、じゃあまたあとで!」

「「はい、お疲れ様です」」


 すぐに駅に着いたので、そのまま電車組と別れる。残ったのはぼくと枝美里と——。


「あらぁ、あなたたちも歩きなの?」


 丹色先輩だった。それじゃ行きましょうかとズンズン歩いて行く丹色先輩。慌てて着いていく。


「響くんと、枝美里ちゃんは仲良いの?」

「え、えーと」

「嫌だなぁ丹色先輩、幼馴染ってだけですよ」

「幼馴染ぃ!? 良い響きね、羨ましいわぁ」

「「そんな良いもんじゃないですよ」」

「息もぴったり〜」


 ぐぅ、2人まとめて揶揄われている気分。コミュ力おばけも3年生の前では手のひらの上ということか。


「ま、まぁ、今日はこの辺で……」


 枝美里が切り出したのは家の前。すなわち、ぼくの家でもあるわけで。枝美里が言い出しただけなのにぼくも止まったのを見て少し戸惑った顔をした丹色先輩はすぐさまにやけ顔に変わる。気づくのが早いな……。


「えー! まさかお隣さん!? マンガみたい!」

「はい、えっと来週からもよろしくお願いしますっ」


 そう言ってサッと家に入った。あの好奇の目には耐えられず。



 それにしても今日も色んなことがあったな。明日の予定を再確認し、寝支度を整え、布団に入りながら思い返す。これが来週からのスタンダードになるんだと思うと楽しみ……いや、ちょっと胃もたれしそう。

 今は明日のことを考えよう。そうして眠りについた。まさか明日も新たな出会いに恵まれるなんて知る由もなかった。


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