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World end maneater

 王の街が派遣した軍隊が作戦基地を作り上げている。天幕が並ぶ中で一際大きなものの中に、英傑の”射手”ラクシェイム=エルス=キルドレインと、”殺陣”吾妻雪見がテーブルを挟んで向かいあって座っている。もう一人、緊張した面持ちの、というよりは不貞腐れた様子の勝る少女が隅で小さくなっていた。それから端のほうに槍に体重を預けるようにして、ローブを目深にかぶった長身の男が立っている。

「兵隊は?」

「この後の対粛清教のための兵力であって、人海戦術の通じ辛い悪魔達は我々魔法使いでなんとかしろとのお達せです」

「つまり我々は我々とほぼ同数の悪魔を相手にせざるを得ないわけか」

「楽しいですね

 ラクシェイムが笑った。

「人格破綻者め、死ね」

「ところでラーンスロット老、会話に加わって欲しいのですが」

ユキミが毒づいたのをサラリと流して、ラクシェイムはローブの男に話を振る。

「人間の戦術のことなどわしにはよくわからぬ、主らに一任する」

 男がしわがれた声で答えた。

「あとで文句を言っても遅いですよ?そういう人にはとんでもなく危険な場所を割り当てるのが剣の街のやり方ですので」

 肯定するように沈黙する。ラクシェイムは浅いため息を吐いた。

「現状を整理しよう。英傑は己、ラクシェイム、ラーンスロット、ミズチ、それに遅れて来るらしいカイセルの五人。英傑以外の魔法使いを十六名寄越しているが」

「まあそれほど期待しないほうがいいでしょうね」

「同感だ」

 ユキミがうなずく。

「対して悪魔の数は」

「ライベアスをはじめとする十数体。戦闘に特化したものとしては、アズダロンとワークワイルを確認しているらしい」

「白旗でも揚げますか」

「貴様の内心がそれで満足するなら、それもよかろうが」

「ご冗談を」

「だろうな」

「ていうか作戦を立てようにもこの面子だと絡め手が効きませんね。リビトさんかヴァストローデが生きていれば戦術にも幅ができたかもしれませんが」

「おまけにあの時と違ってレセナもいない。あれはあれで地獄だと思えたものだが」

「より一層悪いですねえ」

「具体的な作戦案は?」

「少し待ってください。偵察がそろそろ帰ってくるはずです。殺されていなければですが」

 馬の蹄の音が聞こえてくる。天幕の中に、背の低い痩せた男が入ってくる。泥で汚れた灰色の髪に同じく汚れたアズマ地方の装備を纏っている。口元を隠しているので、一見すれば女性と見紛うほど線の細い。二十七人の英傑の一人、“土竜”ミズチだ。

「どうでしたか?」

 ミズチは口布を外した。整った青年の顔が顕になる

「街道沿いにライベアスが一人で待ち構えている。他の悪魔は察知できなかったが、気配は感じた」

「どういうことだ」

 いくらライベアスといえど人間の軍隊すべてをたった一体で止めることができるとは考えていないだろう。つまり彼の思惑は、英傑達の足止めだ。

「脱出する気ですかね。我々だけ止めてしまえば、兵隊達は他の悪魔でもどうにかできるでしょうから。撤退は成功します」

「悪魔共の全力で我々に抗戦したほうが勝算が高いだろうに。なぜそうしない?」

「なるべく波風立てたくないんじゃないですか。先の戦争で、人間の全力と悪魔の全力がぶつかれば数の差で人間が勝ることを学んだのでしょう」

 ユキミは舌打ちした。

「対ライベアスであれば己れは役に立たんな。あれは己れの得意とする平面での勝負では無敵だ」

「ご安心ください。対ライベアスでは自分に秘密兵器があります」

 ラクシェイムは隅に居た少女の首根っこを掴んで、真ん中に引きずり出した。少女――クーレン=ライカーはかわいた笑みで、「ははっ……。はじめまして」と言った。ユキミは無感情な目でクーレンを見た。ユキミはおおよその立ち振る舞いで相手の技量がわかる。クーレンの剣術はとてもではないが、ライベアスに通じるものではないと見切っていた。ユキミの冷たい視線を受けてクーレンがさらに萎縮する。さらりとラクシェイムが言う。

「ライベアスは自分とこいつで引き受けます。ユキミさんは他の悪魔に注意を払ってください。ミズチとラーンスロットさんは他の魔法使いを連れて街道を迂回、脱出路を塞いでください。おそらくそちらでもワークワイルかアズダロン、またはその両方とぶち当たると思いますが。それで、いいですか?」

「了解した」

 ラーンスロットが言い、ミズチは黙って頷いた。

「では一刻ほど休んでミズチの疲労が取れたらいきましょう」

「カイセルは待たんのか?」

「自分は彼を当てにしていません。PTSDを発症した人間を戦場に引きずり出すなどナンセンスだと思っています」

「それもそうだにゃ」



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