3 剣の街
3 剣の街
次の街についたが、壁が壊れていた。一箇所に大きな力がかかったらしく、丸く大きな穴が三つほど。そしてそこから亀裂が走って崩落したようだ。悪魔が侵攻してきたのだろうか? ヨフはとりあえず入ってみる。死体があるなら弔おうと思ったし、使われることのない道具があるなら、火事場泥棒しようと思っていた。
街の中はもっとひどかった。
火が放たれたらしく無事な場所が一つもない。すべてが焼け焦げていた。血の飛び散った跡もある。折れた剣。曲がった剣。煤けた剣。装飾が焼けた剣。血のついた剣。戦いの凄惨さが一目で見て取れる。ただし死体は一つもなかった。代わりに無数の、十字架が立っている。すでに誰かが弔ったのだ。
幾つも幾つも、不気味なくらいに十字架ばかりが立っていた。剣を組み合わせて無理矢理十字にしたものや、木製の棒を組み合わせて作ったもの。どれも急拵えのものばかりだった。きちんとした聖職者の仕事ではない。
いったいここでなにが起こったんだろう?
ヨフは歩きながら、まず敵の兵士がいないことを疑問に思う。街が街を滅ぼす理由というのは意外と少ない。発展しすぎて人口が増え領地が足りなくなった、というのが最も多い。次に経済上の理由。将来破綻する見込みのある街が、資源を欲して戦争を起こすのだ。あとは民族や宗教、主義の対立くらいだ。内乱というのもたまにあるが、ここはあきらかに違う。いいや、この跡地を見ているとどの理由も違うように見えてならない。まるで壊すために壊したような。――見せしめのような。
どれにしても勝った街は負けた街を取り込むのが普通だ。だからこんな徹底的に街を壊したりはしない。あとで自分たちが住むのだから。
そもそも剣の街というのは傭兵業で生計を立てていたはずだ。住民はみな、幼いころから剣技を仕込まれる。他の街との戦争に駆り出されることが多いため、死亡率も高い。代わりに実戦経験を多く積んだ人間の戦力は、生半可なものではない。
剣の街に戦いを挑むには、多少軍事力に秀でている程度ではたりない。
ここを攻め滅ぼしたのは「王の街」だろうか?
ヨフはふと思った。王の街は王様を守るために、強い兵士や魔道士をたくさん引き連れている。剣の街の軍事力に対抗できるのは、そこ以外に思い至らなかった。だが王の街は「侵攻に対する自衛」以外での軍事力の行使を禁じていたはずだ。軍隊の出陣に対しては緊急国民議会が開かれ、厳密にコントロールされている。そして過去に出陣が許された例はない。
考えながら歩いていると開けた場所に出た。滅ぼされる前は、そこは広場だったようだ。中央に一人の人間が蹲っている。身長の二倍はありそうな、馬鹿長い刀を片手に持っている。赤い髪の毛をしている。黒い軍服を着ている。ヨフに気づくと、長い刀の切っ先を向けた。
「それ以上近づくな。殺すぞ」
喉が潰れたようにしわがれているが女の声だった。
言われたので立ち止まる。声のわりに顔は若い。
熱で喉が焼けたのかもしれない。
「あなたはこの街の住民?」
「そういうお前は銃の街の者か?」
「違うよ。僕は旅人だ」
「そうか。失せろ」
取り付くしまもない。
なんだか引き下がるのが癪だった。
ヨフは意地っ張りなのだ。
「この街でなにがあったの?」
「見ればわかるだろ? 戦争に負けたのさ。あたし以外はほとんど殺されるか、捕虜にされて連れてかれたよ」
「やったのは、銃の街?」
「ああ。やつら正面から戦わねえ。物陰に隠れてこそこそと、あの銃って武器でみんな殺された。あたしも腹に穴が開いて、これまでさ。壁の穴は大砲ってやつで開けられた」
「どうして彼らは引き上げたの?」
「あたしに勝てなかったからさ。百人くらいは殺してやった。でもこの傷だ。当分ほっといたらあたしが死ぬから、死んだころにもう一回こようってわけだ」
女が自嘲気味な笑みになる。よくみると彼女の足元には血だまりができていた。出血量から見て、たしかに長くなさそうだ。
「けど無念だね。せめて正面から戦って死にたかったもんだ」
「ふうん」
死ぬ間際の人間。なにかしてあげたかった。傷を治すのは、ヨフの魔法の範疇ではない。自分の傷ならば別なのだけど。
彼女のためにできること。
ヨフは名案を思いついた。
「えっと、戦おうか?」
「あ?」
「僕が代わりに戦おうか?」
ヨフの提案に、彼女は鼻で笑った。
「はっ。てめえみてえなチビに何ができる?」
「あ、チビって言ったな。僕、怒ったよ?」




