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Soul cradle


 その頃、王の街から南に位置する切り開かれた平原で悪魔と人間の決戦が始まった。

「さて、いきますわよ。各々方」

 軍服に着替えたメイデンが足裏を鞍に固定して馬の上に立つ。両手でしっかりと握るのは、槍の先に大きな布を貼り付けた「旗」だ。

「各々方、相手は約四十体の悪魔、たかだか四十体。役不足だと思いませんこと?」

 三百の騎兵達が一斉に槍を鳴らす。

「四十。たった四十ですわよ? わたくし達の相手をしたいならば、その千倍連れて来いっての!」

 魔女の振る旗が悪魔達の方を指し示した。

 メイデンは『旗の魔法』を使った。

「突撃!」

 地鳴りにも似た、三百の馬が奏でる戦場音楽が平原を揺さぶる。待ち構えていた悪魔達が魔法を展開する。ライベアスの挫の魔法などの突撃衝力を弱める魔法が騎兵の突撃を受けようとした。それは人間と悪魔が行った最初の戦闘で有効だった手だった。

メイデンが旗を振った。旗の動きを見た騎兵達が即座に散開、魔法の展開が薄い部分に迂回し、食らいつく。崩れた場所を補修しようと動いた悪魔の横合いをつく。槍が突き出される。ライベアスが動いた。近い間合いではさすがにライベアスの挫の魔法を避けることができずに馬が転倒。一騎の転倒に後続の馬が巻き込まれるのがこうした騎兵の弱点のはずだが、メイデンが旗を振ると訓練された馬は先に転倒した馬を跳び越えた。空中で騎兵が槍を突き出す。ライベアスの魔法は性質上からの攻撃に弱い。虚をつかれたライベアスは転がるようにして左へ逃げる。しかしそちら側の兵がまた槍を突き出す。ライベアスは槍を掴んで止めたが、また別の兵士が槍を突き出す。広げた五指のように伸びた騎兵の隊列が悪魔を擬似的に包囲していた。

 メイデンの魔法の効果は極めて単純なもので、「命令の徹底」。ただこれだけだ。

 メイデンの旗には、旗の角度、振り方、止めた位置、振る時間の長さなどにさまざまな情報が含まれている。騎兵達はこれを目で見る、風斬り音を耳で聞く、旗の起こした風を感じるなど、様々な方法でこれらの情報を受け取る。乱戦の中では指揮官の姿を見失うことなどざらだが、よく訓練された彼らは少なくとも風斬り音を聞き損なわない。

三百騎の騎兵達はメイデンの指揮の下、一体の悪魔以上の生物となって戦場を駆け抜ける。ものの数分で、十数体の騎兵と引き換えに二体の悪魔が倒される。騎兵に対して個体で圧倒的に勝りながらも悪魔側が劣勢となっている理由は単純で、手数が足りないのだ。

 指揮官をどうにかしなければならないと考えたライベアスはメイデンに突撃しようとする。が、騎兵達の包囲はそれを易々とは許さない。数に任せて攻撃の密度を上げて反撃の隙を与えない。ライベアスは無数の槍の対処に追われる。

「耐えろ! 所詮は騎兵。突撃を終えれば方向転換には時間が掛かる。その背後を突けば」

 言い終わる前に人の壁が殺到した。

騎兵を追う様に突撃してきた兵隊の隊列が悪魔と接触したのだ。「っ……」騎兵の背をつく余裕はなかった。騎兵に体勢を崩されていた悪魔達は、否応なく乱戦に巻き込まれた。それでもライベアスを先頭とする強力な悪魔の群れは兵士を鎧袖一触に蹴散らしていく。歩兵達はメイデンが指揮する騎兵ほどの速度も練度はなかった。しかしその分、数は多い。そして兵隊の隙間を縫うようにして低く動く影があった。吾妻雪見だ。頭の上にぴょこんと猫耳を生やした、二足歩行する猫のような容姿を持つキャルト族の剣士。乱戦は得意中の得意であると自負する彼女は凄まじい速さで兵と兵の間を駆け抜けていく。

 兵士の体を死角にして、槍の影から一体の悪魔の側面に飛び出す。抜刀と同時に一閃。奇襲を防げないと判断した悪魔は両腕を盾にして、刀の進行を止めようとする。だが雪見の刀は悪魔の強靭な筋肉を切り捨てて胴体に至った。切断。真っ赤な血をぶちまけて上半身が地面に落ちる。血を拭き取って納刀する。抜刀からの初太刀に限り、あらゆる物体を切断できる『閃の魔法』の前に防御は無意味だった。顔に飛んだ血を舐め取って、雪見は再び兵隊の影に潜る。

(手筈よりも補助が遅い。何かトラブルがあったかにゃ?)

 雪見は灯台を見る。ラクシェイムがあそこをとって、上から自分たちを援護するだったのだが、一向に射撃が来ない。構わない。ならば自分がすべての悪魔を切り捨てればいい。レセナのサポートを元に別の悪魔の死角から飛び出した雪見が抜刀と同時に一閃。しかし悪魔は爪で挟み込むようにして雪見の刀を止めた。閃の魔法の“絶対切断”は刃に触れなければ効果がない。雪見は刀を手放し、体を回転させ足払いに移行する。人間と悪魔の膂力差から蹴りは効果が薄いと判断した悪魔は衝撃に耐えるために筋肉を強張らせる。予想したような蹴りはこなかった。代わりに巻きつくように足を絡ませ体を背面へと動かし、同時に逆方向に体に捻り、腕を絡めて悪魔の体をよじ登った雪見が、回転の終点にいつのまにか抜いた短刀を引き連れて悪魔の首筋を断ち切った。着地と同時に刀を取り、また兵隊の影に潜ろうとした。そのとき、雪見の近くにいた兵士が突然彼女を巻き込んで転倒した。

「っ……」

 ライベアスの挫の魔法だった。すんでのところで後方に跳んでなんとか効果領域から逃れる。跳躍した雪見は兵隊の肩を蹴って更に背後へ逃れていく。

「逃がさん!」

 ライベアスが追う。筋力に差があるためライベアスの方が速度は上のはずだが、兵隊を挫の魔法で薙ぎ倒しても足場が悪すぎて全力で走れない。対して雪見は身の軽さを生かしてぴょんぴょんと飛び跳ねていく。ライベアスは空気を挫いて足場を作り出し、雪見の上を取る。

(もう少し遊びたかったんだがしかたにゃいか)

アルによるとライベアスの魔法は同時他方向からの一斉攻撃に弱い。「レー、陣との距離と方角を」レセナの名を呼び、サポートを求める。レセナは少し遅れて「はい、そのまま後退してください。ヨフとレトとディーが控えています」「了解だにゃ。しかし上に立たれていては叶わんにゃ。ライは何をやってる?」「灯台に敵が控えていたようです。交戦しています。間に合うという計算の元に戦略を立てていますが」「……」雪見は違和感を嗅ぎ取った。レセナの声の背後に、ラトルレイスの気配がないのだ。音によって戦場を支配しているのはレセナなので、そのこと自体に別に問題はないのだが。

上空から来る挫の魔法が手近にいた兵士を押し潰す。雪見は思考を止めて、逃げることに徹する。




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