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9 学の街

 一頻り食べ歩きを終えて、ヨフ達は宿に戻ってきた。

「ねえクーレン。この辺りにどこかおもしろそうな街はないかな」

「そうですわねえ、ヨゼフ。街、というか街の跡地なのですが、機械の街の跡がありますわ」

「うわ、おもしろそう。次に行く場所、そこに決めよう」

仲良くなってるんじゃねえよ……。ルピーは額を抑えながら二人の会話を聞いている。すっかり仲良くなったクーレンとヨゼフが雑談に興じている。非常にまずい。このままだとクーレンは「旅についてくる」と言いだしかねない。元々クーレンは学業に積極的なほうではなく、単に彼女の親が「剣以外の道も知ってほしい」と言ったから学の街にやってきた類だ。学の街に特に拘りはないだろう。ヨフも道連れが一人増えるくらい構わなさそうだ。むしろ喜ぶかもしれない。ルピーが個人的にうんざりしている諸々の要素を除けば、クーレンは魅力的な女の子だ。ヨフくらいの年頃の少年が憧れても無理はない。

クーレンは一度自分の宿に戻った。

 ヨフは出立の準備を整え始める。ベッドでよく眠って、朝を迎えた。

「機械の街の跡地へ行くのか?」

「うん。興味あるんだ。ディベーロの故郷だから」

 言ったあとで少し痛そうな顔をする。ディベーロ=ウルエルガ=マキナウォール。粛清教の側についた裏切り者の魔術師にして、人間の世界で最大最強の英雄。この世界で生きるものなら子供でも知っている、生ける神話のような魔法使いの一人。

(最大最強ねえ)

レトレレットがちょっかいを出しそうな肩書きだなと思った。

実際に出していたのかもしれない。

「行こうか、ルピー」

 ルピーはヨフの肩に止まって羽を休める。「クーレンに挨拶してからいくよ」とヨフが言い、学生達の寄宿舎へ向かう。

「おまえさ、クーレンが一緒に来るって言い出したらどうするんだ?」

「んん? 別にいいかな。楽しそうだし」

 だよなぁ。ルピーはため息を吐く。寄宿舎に着いて、クーレンを訪ねる。クーレンは直ぐに飛び出してきた。

「あら、もう行ってしまうのですか」

「うん。でもここすごく楽しかったから、またお祭りのときに来るよ」

「ええ、ぜひいらしてください。……あの、お話があるのですが、よろしいでしょうか?」

「ん? なあに」

「私も一緒に行ってもいいでしょうか」

 いいよ、とヨフいいかけた。誰かが横から割り込んだ。

「駄目です」

 ラクシェイムだった。クーレンの首ねっこを掴む。

「クーレンは自分と一緒に王の街へ行きます」

「……召集?」

「ええ。戦争です。粛清教と悪魔のどちらを相手取るのかまではわかりませんが」

「あ、あの、ラクシェイム?」

「あなたは自分の弟子、自分はあなたの師匠。わかってますよね。クーレン=ライカー」

「……はい、先生」

 うらみがましくラクシェイムを見上げる。それから未練がましくルピーを見た。ルピーは見るからに安堵の表情をしている。

「ヨゼフ、あなたにも来て欲しそうでしたが」

「僕はいかないよ。あの街のためには戦わない」

「わかりました。では運がよければまた」

「気をつけてね。僕はまだ君を殴り足りないから」

 くすりと笑って「では生きて帰ったらもう二、三発は殴られておきましょう」と言った。

 せっかくなので飛行機が出るのを見送りに行く。いままさに飛行機に乗り込むところだった雪見が、ヨフを見つけて手を振った。ヨフが手を振り返すと、雪見は満足したように笑みを浮かべて機体の中へ乗り込んでいく。

 ヨフにはその飛行機が大きな棺桶に見えた。戦場へヨフの友達を連れて行く空を飛ぶ棺桶。雪見は強い。白兵戦ならばレトレレットに次ぐ実力者だ。しかし悪魔達はもっと強い。加えて王の街には三年前の戦争の時ほど戦力は残っていない。きっとたくさん死ぬだろう。もしかしたら誰も生き残れないかもしれない。

「では」

 それを覚悟の上でラクシェイムは飛行機に乗り込んでいく。足取りは軽い。楽しそうだった。ラクシェイムは報復のために生きている。自分の両親、仲間を奪った悪魔を一匹残らず駆逐することだけが彼の定めた存在意義だ。

「ライ」

 ラクシェイムが振り返った。

「生きて帰ってよ?」

 答えずに。ラクシェイムの姿が戦場に続く棺桶の中に消えた。

 ヨフは飛び立つのを見送らずに歩き出した。

 ラクシェイムとクーレン、それから吾妻雪見は飛行機に乗って王の街に向かった。



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