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Judgement days






 ――ライベアスとディアルラは川を下り、ワークワイルという悪魔に拾われた。彼はクトゥルユーが手配していた悪魔で、万が一のときの合流点として指定された場所で待っていた。

「すまない……」

 ライベアスが苦しそうに声を出す。

 ワークワイルはただ首を横に振る。彼には声帯がなかった。言語を理解こそしているものの、言葉を話すことができない。

「……」

 傷ついたディアルラとライベアスを見て、ワークワイルは淋しい目をする。ワークワイルは今度のことが人間との架け橋になり、人間と良好な関係の中で自分たちの主張を通していけたらいいと考えていた。

 決裂に終わる可能性もまた高いだろうとは考えていたが。やはり自分もクトゥルユーたちと共にいくべきだったのかもしれない。クトゥルユーは「あまり大勢で向かって人間を威嚇することもないさ」と笑っていたが、そうするだけの狡猾さを持った相手だったのだ。ワークワイルは自分の決断を悔いる。

 しかしいまはただ二人が帰ってきたことを喜ぼう。

 きっとクトゥルユーも生きて帰ってくる。ワークワイルには彼が敗北するイメージが沸かない。クトゥルユーがついているのだから、ムルブルもまた無事なはずだ。

「ワークワイル、急ぎで済まないのだがすぐに手を打ちたい。力を貸してくれ」

 こくりと首を縦に振る。

 ライベアスが粛清教に関する持ち帰った情報を話す。それが偽の情報ではないかと一瞬ライベアスは疑ったが、それを打ち消す。王の街が「粛清教」を庇う理由がない。今度のことでよくわかったが、人間たちは利益の信奉者だ。金の利益、時間の利益、感情の利益。どの面から考えても粛清教を擁護する理由にならない。利益を考えれば、人間の考えはある程度読めるとライベアスは思う。

 ワークワイルの庇護の元、ライベアスとディアルラは一月の間、身を潜めた。

 その間、クトゥルユーとムルブルが帰ってこなかった。にわかには信じられなかったが、彼らが死んだものとして悪魔たちは行動を開始した。粛清教の本拠である「銃の街」とその近辺の町々を襲撃に出た。

 手始めは壁に大きな穴の空いた剣の街からだった。

 粛清教としても、壁の中に引きこもっているわけにはいかない。彼らの教義は悪魔を撃破するためにあり、その悪魔たちが乗り込んできたのだ。迎え撃たない理由がなかった。

 銃の街の兵隊が水平線上にずらりと並ぶ。銃口の奥に火が灯ると、同時に弾丸が弾き飛ばされる。毎秒八百五十メートルの速さで進む弾丸が空中を突き進んで、突然地面に落ちた。彼らが主力とする銃という武器は、『挫の魔法』に対して究極的に相性が悪かった。

 ライベアスが手を振ると、平面上に存在する弾丸がすべて叩き落とされる。いかに速く、貫通力が高い銃でも、性質が飛び道具である以上、ライベアスを突破することができない。

 ライベアスが接近すると、銃弾にしか向いていなかった“挫”の力が兵士達自身に襲いかかる。兵士たちは例外なくライベアスの前で屈服し、地面と一体となり、潰れて死ぬ。

 ならばとライベアスから離れて戦っているワークワイルに銃口を向ける。しかし弾丸はワークワイルに到達する前に、ことごとく切断される。また命中してもはじかれる。『刃の魔法』を使うワークワイルの全身は硬度と粘りを併せ持つ「玉鋼」の性質を持っている。遠距離からの銃撃で撃ち抜けない。かといって至近距離――、ワークワイルの間合いは死地と同義だった。指先から伸びる薄刃はあまりの薄さに光すら透化するため人間の目に映らない。それでいて長さは身の丈の二倍近い。全身が鎧で全身が刃。悪魔ワークワイルは白兵戦において屈指の実力者だ。

 タードナーという銀髪に浅黒い肌をした老齢の悪魔が、ディアルラと手を繋いで戦場の中央を歩いていた。彼の持つ『闇の魔法』はタードナーと彼の手を握るものに関する一切の存在情報を隠匿する能力を持つ。視覚は愚か、聴覚や嗅覚ですらタードナーを捉えることができない。一方で魔法の発動中は他に対して干渉することもできないのだが。

 そうして銃兵の背後までやってきたタードナーは、『闇の魔法』を解いた。銃兵達がタードナーに気づき、彼を撃とうとしたが、指は引き金にかかったまま動かなかった。

「死にたい」

 誰からともなく零す。死神が彼らの元にやってきて、その銃口を自分たちの喉奥に向ける。『心の魔法』が彼らを殺した。

 集団で戦う悪魔は圧倒的な強さを誇っていた。

 武装と数で戦力差を埋めようとしても、それをゆうに上回る力を叩きつけてくる。

 この圧勝は単に力の差からくるものだけではなかった。タードナーやワークワイルは銃に対して滅法強い魔法を持っている。ライベアスが飛び道具に対して強い悪魔に協力を呼びかけた結果だった。



 そのとき偶然そこにいたトラストウェイが通信機に向けて叫んだ。

「ゼラ! いますぐ戻ってこいっ」

『ええー、なんで? 俺まだ一人も殺してないんやけど』

「暗殺などどうでもいい。本隊が攻撃を受けている。戻ってきて援護しろ!」

『あっちいけこっちいけって、そんな都合のええ話あるかい……。まあわかったわ、三日で行くからがんばー』

 呑気なゼラに対して苛立ちは隠せなかった。こんなときに限ってディべーロも出払っている。悪魔に対して数と武装の他に手札がない。

 三日。

 七十二時間。

 それまでの間、自分たちは生き残っているのだろうか? そもそもゼラがきたところで状況は好転するのか? しないだろう。いくらゼラが強いといっても四体もの悪魔を倒せるほどではない。殺される。悪魔どもに皆殺しにされる。トラストウェイは恐怖からくる震えを抑えきれなかった。

 




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