Judgement days
トラストウェイはフォルトルーロが死ななかったことに内心で舌打ちしていた。
怪我では弱い。最低でも死ななければ軍隊を動かす口実にはできない。アルディアルの誘拐も、アルディアルが特殊な事情を抱えているので口実にはしづらかった。強硬派はアルディアルなど悪魔共の元へ返してしまえ、という論調が強い。元々彼らはアルディアルの存在を苦く思っている。彼らにとってはこれを機にどこかへ消えたくれたほうがありがたいらしい。
結局まともに動かせるのはレトくらいになりそうだ。王の街には強力な騎士や魔道士がいくらかいるが、それらの中にも穏健派は多い。大規模に問題が露見すれば厄介なことになる。
穏健派の中には「粛清教と交渉して戦争をせずに収めよう」と言うものさえいる。すでにそんな段階ではないのだ。いくつかの街が接収され、強力な経済基盤を築き始めている。各々の街の会社が解体され、貴族達の持っていた株式がただの紙切れと化していた。株式の一部を銃の街の保有にした同じことをやる別の会社を作り直すことで利益を維持している。
つまりは喧嘩を売られているのだ。
王の街の資本は他の街での資本に対する税金や、株式に対する配当で成り立っている。銃の街は独自で王の街に対して税を支払っていない。王の街が認可していない街なので、王の街が道の街に対して発注している街道の整備や、学の街で試験を通過して公務員となった人材の派遣を受けていない。接収された他の街では、銃の街に向けて税を収めて、銃の街の認可を受けた公務員を置いている。とはいえ大半の街では元の人材をそのまま使っているので大規模なトラブルは起きていないそうだが。
母体が粛清教であることを除けば、王の街にとって不都合なだけに過ぎない。貴族制への抵抗とも受け取れる。最終的な目標がドグル族を始めとする他民族への虐殺でなければ、より多くの人間が賛同していたかもしれない。獣の街では全員が残酷なやり方で殺されたそうだ。
非常事態に動けない軍隊とそれにまつわる内々の圧力にトラストウェイは心底うんざりしていた。
「全員死んでしまえ……」
トラストウェイはぼそりと呟く。
別に彼にはどーでもよかった。
王の街が潰れようが。
粛清教が世界を牛耳ろうが。
フォルトルーロやリビトが死のうが。
悪魔共が皆殺しになろうが。
どうせなら潰れてしまえばいい。なにもかもすべて。ことごとく。戦争になって燃え尽きてしまえばいい。
「せやな、じゃあ手始めにあんたからどうや?」
すれ違いざまに呟く。
見慣れた下級軍人の男だった。
「……ゼラか。首尾は?」
「上々や。あんたの送ったプロフィール、ようできとるわ。成り代わっとっても誰も疑わん」
「時期がきたら指示を出す。いまは待て。それとクアトヴィラには気をつけろ。粛清教の潜伏に気づいている節がある。とはいえ我々個人を特定できたわけではないようだが」
「構えへんけど、軍人のフリして生活するのはちょっとなぁ……。俺、自堕落大好きやから。飽きたら出てくから早めによろしく」
トラストウェイはその愚痴を無視して歩き出した。
ゼラから充分に離れてから、もう一度呟く。
「全員死んでしまえ」




