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Judgement days



 リビトとレトが城内に戻ると、ぐったりとして、なぜか頭に小鳥を乗せたヨゼフがすでに中で待っていた。トラストウェイとクアトヴィラが一緒だ。その二人と老人が話している。体はやせ衰えているのに、目だけが異常にギラギラとしているのが気持ち悪い男だ。メイナス=ティアルヴィチェ。王の街の陸軍大将だ。

傍目にもトラストウェイとクアトヴィラがイライラしているのがわかった。彼らは悪魔を取り逃がしたことについて、説教を受けているのだ。早々にこれからの話をしたい彼らにはストレスで仕方ない。しばらくしてようやく会話を切り上げたメイナスはリビト達のほうにも歩いてくる。リビトは心中で身構える。しかしメイナスは何も言わずに去っていった。そういえば彼はレトのことがすごく嫌いだったなぁと思い出す。元々メイナスは『二十七人の英傑』達を嫌っているが、その中でもレトのことは輪をかけて嫌いだった。理由は知らないが。

「中佐殿、フォルはどうなりましたか?」

 リビトから切り出す。

「助かるらしい。ただ二度と戦場には立てないというのが医者の見込みだ」

 安堵の息を吐く。

 できれば仲間が死ぬ場面はもう見たくないものだ。

「貴様らはとりあえず二、三刻の間は体を休めておけ。悪魔どもを追撃する」

「しかし正直なところ、自分にはアルとフォルを失ったいまの戦力でクトゥルユーに勝てるとは思えませんが」

「ヨゼフをつける。それでどうにか……」

「僕いかないよ?」

 ヨフが口を挟んだ。

「いい加減にして欲しいね。人のこと無理矢理連れてきたと思ったらわけのわからない作戦に組み込んで。だったらせめて正当性のある戦いにして欲しかったよ。交渉のためにノコノコやってきたライベアスを騙し打つことの片棒を担がされるなんて」

 最後に吐き捨てるように「君たちはいったい何様なのさ?」と付け足す。

「……英傑の称号を剥奪することになるが」

「構わない。僕はもう降りる」

 そう言い切ってしまえるヨフが、リビトは少しだけ羨ましかった。

 トラストウェイが薄くレトを睨む。

 悪魔を一匹でも仕留めておけばまた事情も違ったのに。そう言いたげだった。

「おいおい、泣き言を言うわけじゃねえが、クトゥルユーを相手にするなんて聞いてねーぜ? 相手方の増援を考えなくていいって言ったのはてめえだろうが。こっちのせいにしてるんじゃねーよ」

 レトが小馬鹿にした口調で言う。

 彼にとって自分で戦えない人間というのはすべて軽蔑の対象なのだ。作戦参謀などその代表例だ。

「腹を割って話しましょうか」

 リビトが非難めいた視線を向ける。

「自分もヨフと同じ気持ちです。あなたがたに対して不信感がある」

 横目でレトを見る。

「レト、君は知ってたんだよね?」

「ああ、交渉のためにここにきたのをこれ幸いとぶっ殺そうとした」

「それで表向きにはきっと、“王の街に入って大量殺戮を企んでいた悪魔を抹殺した”ってことにするんでしょうね?」

 トラストウェイが黙る。

 代わりにクアトヴィラが「少しよろしいですか?」と片手を上げた。

「お言葉ですが、我々には我々でライベアスを殺さなければならない理由があったのですよ」

「理由?」

「はい、背中を刺されないためです」

 リビトが怪訝な表情になる。

 クアトヴィラが続ける。

「対粛清教に、そのうち王の街は重い腰をあげるでしょう。戦争になります。しかし主力を粛清教に差し向けているとき、背後から悪魔に襲われたらどうなると思いますか?」

「そりゃ全滅する」

「そうです。いかにこの街の陸軍が強力でも、悪魔と粛清教の両方と同時に戦うことはできないでしょう。だからせめて片方を威圧しておく必要があったのです」

「わからないよ」

 ヨフが呟く。

「仮にライベアスを殺したとして、悪魔達が大規模な報復に出ることは考えなかったのかい?」

「あなたと私では悪魔に対する認識が、大いに異なるようです。悪魔達は臆病だ。だから“ライベアスが殺された報復”よりも、“あのライベアスでさえ殺されたのだから人間には手を出さないほうがいい”と考えます。第二のベルリアは現れない。あれは単なる特異現象だった」

 すらすらと答える。まるで用意された原稿を読み上げているようだ。ヨフは考える。たしかにクアトヴィラの言う通りかもしれなかった。悪魔たちの中で集団での自衛、または悪魔側からの攻撃という発想に至ったのは、長い歴史を見てもいまのところベルリアだけだった。

「予想外だったのは、クトゥルユーとムルブルという悪魔の登場です。壁の内側にああもあっさりと辿り着く悪魔がいるとは思いませんでした」

 弱々しく吐き出す。

あれが三年前に本気で奇襲にきていたら、私たちは一たまりもなかったのでしょうね。

 クアトヴィラは口の中でだけ呟く。

 通常の悪魔はミスリル製の壁を通れない。退魔の力と表現する人間が多いが、なぜ通れないのかはよくわかっていない。おそらくは悪魔の持つ独特の魔力とミスリルの持つ魔力が反発するのだと考えられている。

「待って。あなたはディべーロの介入を予想してたの?」

「あそこまで大きく仕掛けてくるとは思っていませんでしたが。なにかしら手は打ってくると考えていました。アルディアルを戦力として信用しすぎました。反省しています」

 ヨフにはクアトヴィラがなにかの怪物のように見えた。いまの状態すら読みの範疇なのかもしれない。この状態は彼の読みの中ではいいほうなのか、悪いほうなのか。

「これからのことはこれから話しますが、ここまでで何か質問は?」

 ヨフもリビトも首を横に振った。

「納得はしてないけど理解はした」

「充分です。トラストウェイ中佐」

 頷いたトラストウェイが説明を引き継ぐ。

「壁の中に入れるあの二人の悪魔に対して、すぐに抹殺の命令が下るだろう。あれは危険すぎる」

 全員が頷く。街中で悪魔に奇襲を受ければ誰がどんなに備えようとも一堪りもない。大きな被害を受ける前に魔法が判明したのは、幸運だったとさえ言える。

「ヨフの話では、ムルブルという悪魔は光になれるそうだ」

「おいおいそんなもん追撃しようがないじゃねえか」

 レトが呆れた口調で言う。

戦えないことを残念がっているらしい。

「いいや、おそらくあの魔法はなんらかの制約がある。この街からそう遠くは行っていないはずだ」 

「一度に遠くへいけるならクトゥルユーが足止めに残る理由がないから。か」

 リビトにクアトヴィラが頷く。

 トラストウェイが地図を広げた。

「クトゥルユーは自分自身が水と化して逃げたそうだな?」

 レトがめんどくさそうに首だけ動かして肯定した。

「川の流れに逆らって動くのは容易ではないし、そうする意味もない。クトゥルユーは西へ逃げたと考えるのが自然だろう」

 王の街は北、東、南の三方から続く川が合流し、西へ流れていく。トラストウェイが地図上の川の流れを指で辿る。

「王の街にはかつて外周に灯台があった。外敵を発見し、すぐに盾の街に報せる役割を持っていた。が、壁から突出しているということで幾つかが悪魔共に狙い撃ちにされて放棄された。西の灯台はここだ」

 盾の街の門から十キロ程度。

「いまは廃墟だが、悪魔とて身を休めるには建物の中のほうがいいようだ。おそらくはここか、さらに西南に位置するこちらの灯台に潜んでいると思われる」

 トラストウェイの指が南のほうをなぞる。

「盾の街と灯台、また灯台同士は街道で繋がっている。迷うことはないだろう。そこにいなければ追う必要はない。引き返してこい」

「よし、じゃあ早速出ようじゃねえか」

 レトが急にやる気を出した。戦闘の目算が立ったことがそんなに嬉しかったのか。職場にまともな人間がいないことを、リビトが悲嘆する。トラストウェイが呆れながら言う。

「最初にいっただろうが。お前とリビトは少し休め。主力を動かせない現状でお前らに疲労されるとまずい。それにリビトはともかく軍籍のお前を動かすにはお題目がいる。それをゴリ押すまでには少し時間がかかる」

「あっちで死にかけてるフォルにトドメを刺したら一発で口実ができあがるね」

 皮肉気味に言ったリビトのそれに「それは妙案だな」とトラストウェイが柏手を打った。

「それをやったら僕らは全員あなたたちの敵に回るけど」

 ついでに釘を刺しておく。

「じょ、冗談に決まっているだろう」

 トラストウェイは取り繕ったが、表情が冗談ではなかった。

「では、三刻ほど休ませてもらいます」

 このままトラストウェイの阿呆面を眺めていると殴ってしまいそうだった。会議室を出たリビトは苛立ちに任せて近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばした。



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