7 空の街
フォルトルーロとヨフは機内に戻った。ルピーは鳥の姿になり、ヨフの服の中でぐったりとしている。腹の傷は致命傷の一歩手前で、ルピーでなければ動けなかっただろう。
操縦士達から礼を言われ、席に戻って休む。
「しかしお前もわからんやつだな」
「そうかな?」
「甘いよ貴様は。やつらはすべて駆逐するべきだ。お前はあの時何を学んだ?」
ヨフは目を瞑った。ベルリアのことを思い出す。
ヨゼフ達は、たかだか五十にも満たない悪魔達に、二百を超える魔導士と五千人の兵隊で挑んだ。弱いものの大半は圧倒的な悪魔の力を前に逃げ出した。中途半端に強いものは殺された。本当に強いものは誰かを守って死んだ。誰も彼もみな死んだ。そうしてベルリアを打倒したとき、最後まで生き残ったのはたった二十七人だった。
地獄。
そう形容するにふさわしい光景だった。
そしてその時参戦した悪魔達の半数は、逃げ延びてまだ生き残っている。
「僕もちゃんとあの戦いで学んだよ。でもそれはきっと君とは別のモノなんだろうね」
ヨフは覚えている。
ベルリアは軍隊しか狙わなかった。人間の根絶を口にしてこそいたが、普通に暮らしている普通の人々は手にかけなかった。
また逃走するものを後ろから撃つことはしなかった。逃げるものはそれに任せた。挑んできたものだけを殺した。
宣戦布告し、準備期間を与えたのちに戦いを挑んできた。奇襲は絶対に行わなかった。
味方の犠牲を嫌ったし、敵であっても礼節を持って接した。
そもそもパゼルと同様、ベルリアも最初は人間と「交渉」しようとした。
人間がそれを拒絶しただけだ。
もちろんフォルトルーロだって同じものを見てきたはずだ。ただフォルトルーロはそれを認めなかった。虐殺者が人道を備えた理知的な存在だと理解できなかった。
ただそれだけの話だった。
「フォル、君はどうしてこれに乗ってたの?」
「たまたまだよ」
「嘘だね。航空会社から依頼を受けてたんでしょう?」
「なぜそう思う?」
「パゼルの風の魔法と、君の流の魔法は相性がよすぎるんだ。だからパゼルの攻撃は単調になった。僕らの付け入る隙が生まれた。……僕がこなかったら単身で戦う気だったのかい?」
「知らんな。偶然だろう」
「君が悪魔を憎んでるのはわかるよ。バルト族は彼らによって少数種族になったのは知ってる。復讐したいのは理解できるけど、自分の命を捨てるような戦いを、君の仲間達は望んでないと思うよ」
「黙れ」
フォルトルーロが言葉に殺気を滲ませる。
亡き同胞達のことを持ち出されたのが勘に触った。ヨフも言いすぎているのはわかっていたので、言葉を切った。
時期に飛行機は、本来の目的地だった学の街よりも手前で降りることになった。翼にトラブルがないかチェックするためらしい。
飛行機は無事に盾の街に降りた。盾の街は王の街を取り囲むように、東西南北に四つある街で、飛行機が降りたのは西側だった。
「では私は先に降りるよ」
フォルトルーロがさっさと出て行く。別れ際に鋭くヨフを睨んだが、思い直したように表情を緩め、笑みを作った。
「貴様の言うことにも一理はあるのだろう。しかし老人というのは容易く考えを変えれんものだ。どうか許してくれ」
「……死なないでね?」
「人はいつか死ぬものだ。私もお前もさして変わらんよ」




