7 空の街
パゼルは飛行機までヨフを連れて戻った。
機体の上に降り立つ。脂汗を流している赤髪がその首に刀を突きつけて、ヨフが背中から降りる。
「ごみのくせに……」
パゼルが憤怒に体を震わせる。だが既に場の支配権は彼にはなかった。この至近距離であれば、フォルトルーロの魔法がパゼルの『風の魔法』の威力を奪っている。魔法以外であればルピーが首を撥ねるのが、なによりも速い。
「どうする?」
ルピーが言い、ヨフが答えた。
「話を聞こうよ。どうしてこんなことしたのか知りたい」
パゼルは少し黙ったあと、吐き捨てるように言った。
「渡り鳥が……、これを怖がって飛べなかったんだよ。だからこいつを飛ばせないように脅してたんだ。何回も警告して、考える時間もやったのに何も変わらねえから、今度引き返さなけりゃゴミの乗った機械なんか叩き落としてやろうとしたんだ」
「ほうほう」
フォルトルーロがにやにやと笑う。
ヨフはあまりおもしろい話じゃないなと思った。
「飛行機が止まれば空の街の経済は止まる。人が集まらなくなり、金も集まらん。失業者が溢れ、スラムが拡大する。治安が悪化し、そのうち消滅する。人の側からすれば、『飛行機を止めろ』など受け入れられるはずもない話だなぁ?」
フォルトルーロは短槍を抜く。パゼルの心臓を突こうとして。
「待って」
ヨフがそれを制した。
「ねえパゼル。悪いけど渡り鳥には別のルートを飛ぶようにお願いできないかな?」
「……」
「君たちには君たちの領分があるように、僕たちには僕たちの領分があるんだ。君は負けたんだ。僕たちは勝った。ここは妥協して欲しい」
ヨフにはそれが詭弁であることがわかっていた。人は悪魔や動物を駆逐して、無限大に自分達の領分を広げて行く。それに抵抗した者は悪として討たれる。三年前人間の駆逐を歌ったベルリアのように。
「……わかった」
パゼルは苦虫を噛み潰した表情で頷く。
「ヨゼフ、なにを考えている?」
笑みを崩さなかったフォルトルーロが顔を歪めた。
「何って。とりあえず彼は僕が仕留めたんだから、ここは僕に任せてよ? 害を無くせたら別に殺さなくてもいいじゃないか」
「ふざけるな。そやつは悪魔だぞ? 悪魔など生かしてどうする? 貴様はベルリアとの戦争で何も学ばなかったのか」
「あたしはさっさと休ませて欲しいね。傷が結構深いんだわ」
ルピーが茶化したが、緊迫した空気は崩れない。
「どうしても殺すのかい?」
ヨフが獣の魔法を使う。その気になれば彼は一応、フォルトルーロの魔法を借りなくとも飛行機の上で戦うことはできる。
フォルトルーロは少し考えて、「好きにしろ」と言った。不服そうではあったが、直接の打撃を返せないフォルトルーロの魔法はヨゼフに対して相性が悪かった。
「ありが」
その時だった。数羽の鳥がフォルトルーロを目掛けて突っ込んできた。咄嗟のことでフォルトルーロが体勢を崩す。
(パゼルの眷属共っ……!)
瞬時に判断したルピーがパゼルの首を撥ねようとした。が、動けなかった。フォルトルーロの集中が乱れたことで、「流の魔法」が途切れたのだ。風圧がルピーの体にのしかかり、吹き飛ばないようにするのがやっとだった。刀を振ることはできなかった。
パゼルがまずは手負いのルピーから殺そうと風の魔法を使って空気を集め、疾走。ルピーは死を覚悟した。
べきり。
短く。重い音が響いた。
「……信じたかったんだけどな」
ヨフの灰色熊の腕が、パゼルの上半身をへし折った。パゼルの体は上空から、はるか下の地面に向けて落下していった。




