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7 空の街




警察署で簡単な調書を作った。警官は終始丁寧で、手続きはかなり早く終わった。

「あの子はどうなるの?」

「少年刑務所に送られます」

 淀みなく答える。

ヨフは少し気分を暗くする。

「旅人様が心配されるようなことは、きっとありませんよ。きちんとした衣類が配布されますし、三食の食事も出ます。労働が義務化されて、出所後に望むならばそのままそこへ就職することもできます」

「へえ。そりゃあよかった」

 劣悪な環境での労働なのではないかと少し思ったが、そこまで気にするような義理もなかった。

「彼みたいな子供は、たくさんいるの?」

「ええ。お恥ずかしいことに。職を求めてやってきた親が、それにありつけず、連れてきた子供の養育を放棄してあのような生活状況に置かれています。かといって親のほうにも金銭的な余裕がないので無理強いをするわけにもいかず。行政の補助も数と実態が把握できずに手が回りきっていない状態です」

「いいや、それだけこの街が発展してるってことだから、むしろ誇っていいんじゃないかな」

 ヨフが言うと警官はわずかに微笑んだ。

 どこか暗いところのある笑みだった。

「王の街じゃあ、ああいう人達は治安を悪化させるからまとめて追い出しちゃってたからさ。むしろ常識的な対応でちょっと嬉しいよ」

「旅人さんは王の街に住んでいらしたのですか?」

「うん、少しの間だけどね。退屈だから飛び出してきちゃった」

「へえ……」

 羨望の息が漏れる。

王の街はあらゆる資源が集中するので、非常に住みやすく美しい街だ。……ということになっている。王の庇護の元、絶対の安全を約束された街。その裏側にあるのはわずかでも危険性を持つとされた人間の排除だ。普通の旅人や移民は入街すら許可されない。中央街の住民はほとんどが貴族の血縁だ。外街は商人と職人の街で地方の貴族たちのあいだで観光の名所になっている。が、前述の通り旅人にはあまり関係のない話だった。

「えっと、おすすめの宿とかないかな? 僕、この街にきたばっかりだから」

「ああ、それなら」

 彼はヨフが持っている地図に、少し書き加えた。街の外れにある宿に印がついている。治安のいい道に線を引く。

 ヨフは礼を言って詰所を出た。ルピーが服の中から顔を出す。不思議そうにヨフの顔を見上げた。

「どうしたの?」

「いや、いつも他人がどうなるかなんてあんまり興味なさそうなのに、珍しいなと思ってさ。スラムのガキに思うとこでもあったのか?」

「まあ少しだけ。僕も孤児だから」

 無神経なことを訊いたかなと思った。ヨフは少し笑っただけだった。

 耐震性の高いコンクリートで固められた街並みを横目に、二人は歩いていく。時々飛行機の飛び立つ轟音が響いた。ぽつりとヨフが言う。

「たまにくる僕らにはいいけど、ずっと住んでる人たちにこれは辛いかもね」

「そうだな」

 紹介してくれた宿は滑走路からかなり遠い位置にあった。飛行機の騒音は遠い。そういうことも加味した上で教えてくれたのかもしれない。

「ねえルピー、貧富の差ってなんでできるのかな」

「有効需要の不足、労働需要の不足、経済の停滞、再分配機能の停滞、税率、銀行の機能不全、どこから聞きたい?」

「うー……、やっぱりいいや」

「まあこの街に限れば、労働需要の不足と再分配機能の停滞だろうな。このあたりにしてはかなり進んだ街ではあるが、何分飛行機の利用者が大金を落として急伸した街だ。生活保護制度やら労働斡旋までは手が回ってないんだろ。それに見た目よりかなり税収が少ないんだと思うぜ。産業のほうを伸ばしたいから、税率を低くしてるんだ」

「うん」

「ほんとは企業や消費者から税金を取って、貧困者への支援――いわゆる社会保障だな――に回すべきなんだがな。まあ経済成長に打撃与えるのは間違いないだろうが」

「……あのさ、ルピー」

「なんだ?」

「僕は君みたいに大学を出てないんだ」

 神妙な顔をして言う。

 つまり言ってることが理解できなかったらしい。

「あー……、つまりだ。金を持ってない人が働く場所が足りないのさ。本来そういうときは役所がそういう働く場所を用意するんだが、役所にも金がないからそれができないわけだ」

「なるほど」

 まだわかってないのだが、ヨフは頷いておいた。

「飛行機、すごかったね」

 あからさまに話題を変える。

「ああ、あんな鉄の塊が空を飛ぶんだもんな。一応理屈で飛べることは知ってたが、実際飛んでるとこ見るとやっぱり驚くものだな」

「乗ってみたいなぁ。どこに行くのかな?」

「たしか紙の街と、学の街へは定期便が出てたと思うぜ。知り合いがあれに乗って行ったことがあったよ。他の便は知らねーや」

「へえ、学の街か」

「興味あるのか?」

「うん。学校の集積地なんだよね」

「ああ。発達心理学的に効率のいい学び方で学業を教えてるらしい。世界中で活躍してる学者連中のほとんどを輩出してる。そこで生まれる知恵と連携するために企業やらなにやらが集まって、いまじゃ凄まじくでかい街になってるんだそうだ」

「行ってみようかな。飛行機、乗りたいし」

「……お前、飛行機なんて乗らなくても鳥になれば飛べるんじゃないか?」

「飛べるけど空は寒いし、長く飛ぶのは疲れるんだ」

「そんなもんか」

「うん。じゃあルピー、僕お風呂にいってくるよ」

 


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