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6 独裁の話


 ヨフはシャワーを浴びて体の汚れを洗い落とした。溜めておいた湯船に浸かる。体に熱が染み込んでいく。同時に疲れが溶けていくのがわかる。

「ふー……」

 この瞬間のために自分は旅をしているのかもしれない。歩けば歩くほどお風呂が心地よくなる。

 不意に物音がした。扉がノックされる。

「はいってまーす」

 ルピーがいい加減に返事をするのが聞こえた。

 ルピーはまずかっただろうかと思う。ここにいるのはヨフだけのはずなのだ。まあ水商売の女を呼んだと思われるくらいか。

 ……バカか、あたしは。

 あんな子供がなんの理由があって水商売の女を呼ぶんだ?

あれ? あいつ、そういう理由であたしのことを括ったんじゃないよな?

 つまり女が欲しかったから。

いや、違うよな? 違うよな?

…………。

 扉の外にまだ気配を感じる。三人はいる。ルピーはいま鳥のままだ。ヨフはお風呂中。風呂好きらしいから当分出てこないだろう。強盗だったらどうしようか。

 乱暴にノブが回る。鍵は掛かっている。かちゃりと鍵の差し込まれる音。宿もグルか? 扉が開く。ジーンズが見える。私服だ。戦闘向きの衣類ではない。盗賊の類でもないようだった。室内でも使いやすい短刀を携帯している。それから腰に銃を吊り下げていた。

 先頭の男が片手を上げる。

全員が抜刀する。

ヨフを殺しにきたんだろうか。ルピーはまったく心配していなかった。こんな連中に負けるようなやつは、自分を倒せはしない。ただ腰の銃が気になった。

「……」

 ヨフが風呂から出てくる。

「我々と一緒に来てもらおう」

 リーダー格らしい男が言う。

「別にいいけど、失礼すぎない? 君たち。ていうか服着させてよ」

男が短剣を前に突き出す。「なんだてめえ偉そうな口を」言い終わらないうちに毛むくじゃらになって巨大化したヨフの左手が、横殴りに男を薙ぎ払った。頭から壁に激突する。気を失ったのか、虚ろな目をして崩れる。残りの二人が

「あんまり君たちが失礼だから、機嫌悪いんだけど。とりあえず出てってくれない? 外で待っててよ」

 大方予想通りだったので、ルピーは溜め息しか出なかった。二人は怯えた顔をしている。気絶した一人を回収して、男達が出て行く。

「もうちょっと手加減してやれよ」

「いや、そんなに力は込めてなかったんだけどね」

 灰色熊の手を人間のモノに戻す。

 それから大きく伸びをする。

「……早く服着ろよ?」

「や、もう一風呂あびてくる」

 人をまたせてるのにそれでいいのか? と一瞬思ったが、勝手に押しかけてきて勝手に待ってるだけなのだ。勝手に待たせておけばいいか。

しかし彼らはなんのようだろう? 盗みにきたわけではないようだ。偉い人の呼び出し? に、しては柄の悪い人間を使うものだ。それに呼び出されるいわれがまったくない。ルピーもヨフも、この街には来たばかりなのだ。

しばらくしてヨフが風呂から上がってくる。

「ふー……幸せー」

 体と髪の毛を拭いて、服を着る。それからベットにごろんと横になった。

「おやすみ」

「それはさすがにまずいだろ……」

「あ、そっか。めんどくさいなぁ」

 渋々と支度を始める。それからルピーのほうへ手を伸ばす。

「おいで」

「なんかムカつくな、その言い方」

 腹が立ったので飛びながらついていくことにした。

 二人は外に出た。

「……ついてこい」

 意識を取り戻した例の三人の後ろをついていく。非効率にすぎるめちゃくちゃな景色に、兵士だらけの街。果たしてこの街は行政の力が行き届いているのだろうか。

 三人が先導したのは、役所だった。中に入る。忙しそうにしている受付を素通りする。奥に入り、町長室の前で立ち止まる。

 二回のノック。乱暴だなと思う。目上の相手を訪ねるときは四回ノックするのが正式な作法だ。街次第であまり重視しないところもあるが。

「どうぞ」

 扉を開ける。

中には猛烈な勢いで書類に目を通して判をついている女がいた。整った紺のスーツで時々茶色のポニーテールが揺れている。書類の山に隠れて表情は見えない。

「呼びつけたのに仕事していてごめんなさいね。すぐに終わらせますから、少し待っていてくださいますか」

「嫌だ」

 ヨフが即答すると、女は手を止めた。まるでオートで動いていた機械のスイッチを切ったみたいだった。

 立ち上がり、一礼する。普通にそうしただけなのに立ち振る舞いが丁寧に見える。おそらく貴族だ。二人は思った。

「大変失礼しました」

 真剣な顔つきで言う。


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