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6 独裁の街


 壁が見えてきた。

「やっと次の街かよ」

 疲れた様子でルピーが言う。

 長時間馬に乗って、疲れてるのはヨフのほうだ。お尻の皮がずり向けそうだった。なんだか腹が立ったので嘴を摘んだ。

「ンー、ンー」

 ルピーが何か喚いているが、罰として当分つまんだままにしておく。次から生意気な口を聞いてきたらこうすることにしよう。主従関係はしっかり認識させなければならない。

「ルピー、ただの鳥のふりしといて」

 衛兵さんのところまでいく。

他の街の衛兵よりもしっかりと武装していた。

「旅人でしょうか」

「はい」

 ヨフは短く答え、荷物を差し出した。中身を簡単にあらためられる。奥へやろうとしたのでヨフは彼を引き止めた。

「あのさ、荷物検査はこっちに見えるようにやってくれるかな。国際共通法四条の八項、街入場規制条約の基本でしょ?」

「……失礼しました」

 衛兵に荷物を盗まれないように。また入場を嫌う人間の手荷物に危険物を混入させ、不当逮捕する。などができないようにするための基本的な条約だ。衛兵は不機嫌そうな顔をして、ヨフに荷物を返す。

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

「ヨゼフだよ」

軽く答え、許可証と地図を貰う。

「ただいま軍事演習中ですのでお静かにお願いしますね」

「演習中?」

「はい」

「壁の中で、かい?」

「はい」

 衛兵は平然と答えた。ふつう壁の中で軍事演習を行うことはありえない。住民に無用の恐怖を与えることになるからだ。武器と統制された軍隊の恐怖は、一般人には大きすぎる。

 ヨフとルピーが街の中に入ると、槍を持った兵士がそこかしこに立っていた。

「……穏やかじゃねーな」

 ルピーが呟く。

 ヨフは意図的にそれを無視して歩く。こういう土地では魔道士であることを知られるのは、得策ではない。ルピーもそれを察したのか、なにも言わない。そのうち妙なことに気付いた。一般には流通していないはずの銃を、指揮官らしい兵士が手にしていた。

 地図を眺める。ヨフはまずは宿を目指した。町並みと地図を交互に見ながら歩く。工業系の設備が整っている街のようだ。

 あまり広くない土地に農地もある。ぐちゃぐちゃだった。他の街のように貿易で発展しているわけではないのだろうか?

 道の脇で人間が押さえつけられている。口汚く何かを叫んでいるが、何と言っているのかわからなかった。三人の兵士に殴られていた。リンチに近い形だ。脇目に見ながら歩く。剣や槍は使っていない。腕や足がおかしな形に曲がっている。

「……」

 ルピーがヨフの肩から飛び立つ。それをヨフが無造作に掴んだ。強引に引っ張って連れて行く。

「なにするつもりなのさ」

 小声で言う。

 それからもう少し歩いて宿に着いた。チェックインを済ませて部屋に入る。

「あー、疲れた……」

 ヨフはベットに横になる。

ルピーがその額に止まる。

「なんかぐちゃぐちゃな街だったな」

「そうだね」

 例えば獣の街は木材を輸出してその利益で食料や工業製品などを輸入している。剣の街は剣術を他の街の兵士に教えたり、傭兵の派遣などに資金をつぎ込み、そこから得た利益で他の街から物品を輸入していた。

 けれどこの街は違う。

 農業もやっていれば工業もある。産業構造がめちゃくちゃだった。他の街がそういう一点に特化した形をとっているのは、そのほうがより多く作れるからだ。独自の産業が開拓できれば競争相手が少なくて済む。

 もちろん工業製品なんかも、最小限を自分の街で作っているところはある。けれどこの街は、その比率が半々に近かった。そして工場の大半が、稼働していないように見えた。

 別に大きな街ではない。両立するのは恐ろしく効率が悪そうなのに。

「工業化する途中なのかもしれねーな」

「そうだね。ていうかなにより驚きなのが、ルピーがこの会話が普通にできることなんだけどね!」

「いまあたしのこと馬鹿扱いしたか? これでも陸軍学校首席卒業だぞ。偏差値七十一だぞ」

「うそぉ?!」

 ヨフは本気で驚いた。

「ころす。おまえぜったいいつかころす」





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