焼失の景色
燃えている。紅い炎が、赤い火が、目の前の全てを溶かしていく。
人だ。悲鳴を上げて悶え苦しみながら、黒く変わっていく。ついさっきまで笑顔だったその人の温かい腕も、ほほ笑みを湛えた顔も、綺麗だった赤い髪も全て炭になって朽ちていく。
「あ゛あ゛あああああああぁぁぁ!」
一人だけじゃない、視界いっぱいに苦しむ人がいる。倒れてのた打ち回って、もう動かない人も沢山。
遠くで爆発音が何度も聞こえるかと思えば、何かが炎に焼かれる音だけしか聞こえなくもなる。
「……もうやめろ」
膝を抱えて言っても、格好がつかないのはわかっている。額を膝につけて、何も見ないようにしようとしても見えてしまうこともわかっている。
チリチリと頬を撫でるように、炎が迫ってきているのを感じる。横目に見ると、壁が狭まってきているのがわかった。
「…………もうやめてくれ」
見なくてもわかる、顔を上げれば何が待っているのか。無理やりにでも見せつけられる現実が、嫌でもわかってしまう。
けれど目をそらすことは許されない。
直視しなければこの夢は覚めない。
わかっている。
「………………やめてくれよ」
髪が抜けそうなくらいに強く掴まれる。今まで何度も何度も抗ってきたこの手、どれだけ力を込めても、痛みを我慢して俯き続けても離してくれることはなかった。だから一切抵抗はしない、これから見えるモノもわかっている。
炭になった人の山。黒い人のカタチをした塊が積み上がっている。子供のような小さなものから自分の倍はあるんじゃないかと錯覚するような大きさのものまで、生前のまま崩れることなく折り重なっている。
「ぁ……」
いつの間にか火は収まっている。その代わりに胸の奥から熱いものがせり上がってくる。吐き出すことは許されない、夢が覚めるまで続く苦しみ。
肩に置かれた手を掴む。数日前から増えたこの感覚、決して心地良いものではない、胸糞悪い展開。
「いつまでオレを苦しめるんだ……っ」
握りつぶしてやりたいとさえ思う、硬い大きな手。炎の消えた灰色の箱の中で、オレの後ろに立ち続けるそいつはきっと笑っている。
掴んだ手が急に重くなり、液体をぶち撒ける音がする。足にあたったそれは暖かくて、気が狂いそうな程深い赤色をしていた。
歯を食いしばって振り向く。
「死んだならそのまま消えろよ……オレにいつまでも付き纏うな……」
濁った両目から血を流して、嘲るように笑う首だけの男。
「オレはあんたに構ってたくねえんだよ糞親父……」
足元には、バラバラに刻まれた人の欠片が、赤い水たまりに散らばっている。鮮やかな断面の色もどんどんくすんで、皮膚も黒くなっていく。
気色の悪い顔を突然に炎が包む。それでもまだその眼はオレを見据えて逃さない。
悪夢、逃れられない後悔と恐怖だ。
「消えろ、オレはあんたに縛られる気はない!」
叫ぶ。自分の中にある恐怖ごと持って行ってくれるように願いながら、叫ぶ。
「オレは――――」