見知らぬ親
何百年も昔の話だ。
龍と人間は不可分の存在だった。
それが、龍の族長の命を奪った一発の銃弾により、大規模な戦争が起きた。
その戦争はいまでも散発的に続いているが、どちらにせよ、それきり龍と人間は袂を分かってしまった。
俺はそんな世の中で、輸送業をしていた。
だが、どこからともなく現れ、親とはぐれたと言っていた畿誡沙由里を連れていたが、出会ってから数年経っても彼女の両親はどこにも見当たらなかった。
ある日、裏道となっている古代の道にある棄てられた村で野宿しようとすると、瀕死の母龍であるゲオルギウスと出会った。
ゲオルギウスの息子であるタンニーンを育てることになった。
1年ほど経ち、タンニーンが十分飛べるようになると、そのようすをみていたタンニーンの父親であるリントヴルムがタンニーンを連れて行こうとしたが、古代の盟約による感覚の共有が始まっている俺たちを連れ去るということはしなかった。
だが、龍族の現族長である五ヅ龍が神であるムツヲノヌシノカミに言われ、俺たちを龍族の秘密の洞窟へ連れてきた。
神はその洞窟の中で、俺たちに一つの石を与え、沙由里の両親をそれで探せと言って、消えた。
俺たちはこの1つだけしかない手掛かりをもとに、洞窟の反対側の出口からタンニーンの背に乗って飛び出した。
「どっちの方向?」
タンニーンが背中に乗っている俺に聞いてくる。
「このまままっすぐに」
「分かった」
タンニーンが速度を上げて、その方向へ飛んでいく。
石が徐々に振動を始めた。
「揺れてる…」
紗由里が俺の手を握りながら、後ろでつぶやいた。
「その振動が最大になったところの直下に、きっと君の両親もいるんだよ」
紗由里に言うと、俺にさらに近寄った。
「あのね、実を言うと、お母さんたちの顔、もう忘れてきちゃってるの」
「なんだって…」
「だって、もう7年間以上も会ってないんだから…でも、多分あったら分かると思う」
タンニーンが、静かに飛んでいる。
「タンニーンだって、あったこともないお父さんと、出合った瞬間に分かったでしょ。それと同じだと思うの」
紗由里は俺たちにそう言った。
それが当り前だっていう感じに。
「そうだね。そうだろうね」
俺はそう言って、タンニーンとだけ話した。
「人間の知覚力って、そこまでできるんだろうか」
「さあ、僕には分からないね。なにせ、君たち二人とだけしか話したことないから」
「そうだよなぁ…」
一抹の不安はありながらも、俺たちは石を頼りに飛び続けた。
そして、振動が最高潮に達した時、手から跳ねて落ちていった。
「あの石を追いかけて」
紗由里がタンニーンにいう。
「分かった」
急に体をひねり、石めがけて急降下をする。
地面がどんどん近付いてくるのが、目も開けられないほどの突風の中でも明確に分かった。
数秒か、はたまた数分かが経つと、タンニーンの急降下爆撃も終わり、ゆっくりとランディングして着地した。
目の前には、男の人が立っていた。
「もしかして、お父さん…?」
「紗由里か。すぐに分かったぞ」
そう言う彼の後ろには、龍が座って、さらに女性もその足元に座っていた。
「研究所の上司の人…」
「ああ、自分の上司だ。先に合流できてね」
そう言う彼を、紗由里は紹介してくれた。
「畿誡梱得、私のお父さん。それで、向こうにいるのは、お父さんの上司で…」
「座等安里です。梱得の上司です。よろしく」
その女性はそう私たちに挨拶をした。
「それで、後ろの龍は…」
「儂は天雲。おぬしが産まれるまでは、最後の人とともに育った龍じゃった」
俺たちは、それから俺たちの紹介もした。
タンニーンと俺は、彼らに会うのは初めてだったし、天雲とは紗由里を含めて初めてだった。