『ヘツリの消失』
『ヘツリの消失』シュノ・トール・カーライル著
はじめに――空の子供たちに捧ぐ
地暦以前、世界が球形だったことは、これまでの研究で立証されたと断言しても良いものと思われる。しかし大地の隆起によって世界は変わった。世界は大きな立方体となり、ヘツリによって分離された。私達は立方体の六つの面のうち、たった一つの面で暮らしているに過ぎない。
(中略)
一人の少年が居た。彼が生まれたときにやって来たヘツリの使者は、少年を「大地の子」にすることができなかった。「定着」できなかったのである。しかし、少年は12歳になる直前まで、ヘツリの側にある小さな村に暮らしていた。この少年の存在なくして、私の研究は成りえない。
(中略)
今、世界は再び変化の時を迎えようとしている。ヘツリによって立方体となった世界は、元の球形へと戻ろうとしているのだ。私がこの結論に至った経緯は本論のなかで考察していくが、大きな理由は、「空の子」の存在と「真・大地の子」の存在にある。どちらも「ヘツリの使者」の本来の役割を必要としないという意味では、私は彼らを同じ存在と捉えている。
ヘツリの消失によって、世界は新たな時代に突入するだろう。いつそれが起こるのかは分からない。百年後かもしれないし、明日かもしれない。しかし確実に訪れる。私はできればそれをこの目で見届けたい。祖父と父から受け継いだこの研究結果が、正しいことを証明するためにも。
第一章 ヘツリの定義
1.1 十二のヘツリ
1.2 場所としてのヘツリ
1.3 信仰としてのヘツリ
1.4 定着とヘツリ
第二章 空の子の誕生
2.1 空の子・少年Aの記録1
2.2 北のヘツリに落ちた少年の証言
2.3 南のヘツリに落ちた船乗りの証言
2.4 空の子・少年Aの記録2
第三章 ヘツリの使者の役割
3.1 ヘツリの使者と母親
3.2 真・大地の子の誕生
3.3 ヘツリの使者の役割の変化
第四章 ヘツリの消失
4.1 白い花「トゥールゥ」の発見
4.2 ヘツリの霧の濃度分析
4.3 百年間で見る海風の変化
4.4 ヘツリの使者の証言
おわりに――大地の子供たちに告ぐ
はじめに述べた言葉の前半部分は、私の祖父タギィ・カーライルが生前に書き遺したものから引用した。船乗りだった祖父は晩年、陸に上がってからはヘツリの研究に没頭していた。いや、船乗りであった頃も、祖父は南の海のヘツリまで航海し、ヘツリを見ていたと聞く。彼をそこまで駆り立てたものは何だったのか――冒頭部分でも、本論のなかでも述べたが、空の子であった少年Aの存在に他ならない。
祖父は、すべての空の子に向けて書いていた(道半ばにして途絶えたが)。すべての空の子が、ヘツリの向こう側の世界で今も楽しく過ごしていると信じて。
しかし私はあえて、自らを含む、今は大人になったすべての大地の子に向けて告げたい。私と、祖父と父が長年調べ続けてきたこの研究結果が正しいのならば、空の子を産み、我が子を手放さなければならなかった母親たちの救いになるだろうと信じて。
空の子が、ヘツリの向こう側の世界で定着し、元気に生きていることを願い、ヘツリの消失によって再び一つになった世界で母と会えることをただ願っている。
私自身、かつて空の子を産んだ、一人の女として。
文字書き内輪サークル「タノレトリックス」の課題で書きました。
「立方体」「高鬼」「無重力」で世界観をつくるという課題。
高鬼が見事に世界観関係ないという。話の中では結構重要な要素なんですが。
トールが幸せになれたかどうかは分かりませんが、この話をハッピーエンドにするなら、ヘツリが消失して世界が一つになった後、トールの生まれ変わりとタギィの子孫が出逢って、お互いの世界の話をして、トールが約束を果たして終わりかな、と。
この話はトールの話ではなくヘツリと定着という機能を持つ世界の話なのでその辺は書かないけど。
読んでもやっとさせてしまったら申し訳ないです。