大地の子
月日が過ぎ、ルーシャは16になった。牧羊を営む父を手伝いながら時折、港のある大きな町に出稼ぎに出る。マーロウ家の立派な働き手だ
「ルーシャ、ご飯よ。トールも呼んできて」
母の声に返事をして、ルーシャは外に出ていく。トールのいる場所は分かっている。隣の家のタギィを中心にあの年頃の子供たちが集まる遊び場所があるのだ。
ルーシャも昔はその場所で、いつも日が暮れるまで鬼ごっこをして遊んでいた。
ただ、トールはほかの子供よりもずっと足が遅いせいで、いつもすぐに捕まってしまう。だから、最近はみんが遊んでいるのを側で見ていることが多いらしい。
「あら?」
いつもなら、みんなが走り回っている近くでぽつんと一人、岩のそばに座っている弟。その姿を探していたルーシャのアテは外れた。
子供たちは皆、大小さまざまな岩の上に乗っていた。弟も一緒だ。岩の上に立ち、覚えたばかりの数を数えている。
7まで数えたところでルーシャの姿を見つけた少年は、仲間に手を振ってからこちらへと走ってくる。そのスピードは歩いているのと大して変わらなかったが、彼にとってはこれが全力疾走だ。
ゆっくりと近づいてくる幼い少年の姿は、ほかの子供たちと何も変わらない。泥だらけの服も。日焼けした肌も。無垢な笑顔も。
ただ一つ、その両足に鉄の枷がはめられていることを除いては。
ルーシャは弟と手をつないで帰路につく。
「今日のご飯はなぁに?」
「さあ、何かしら。なんだと思う?」
「ぼくね、シチューがいい!」
トールの希望は叶うだろう。そう教えてやったら、弟は飛び上がって喜んだ。実際は、数センチも飛べなかったのだけれど。
「今日は何をして遊んだの?」
「タカタカ!」
「タカタカ?」
「タカタカはね、高いところにいるときは鬼に捕まらないの」
「鬼はどうやってみんなを掴まえるの?」
「10秒しか同じところにいちゃいけないの。降りたときに掴まえるんだよ」
「へぇ」
そのルールならば、足の遅いトールでも一緒に楽しめる。
「タギィが考えたんだよ」
ルーシャもよく知る隣の家のタギィは、トールよりも2つ年上だ。血気盛んで大人には手のつけられない悪ガキだが、子供たちのなかではリーダー役を担う。
たぶん、タギィがタカタカを考えたのは、トールのためだ。
「良かったね、トール」
「うん」
ルーシャを見上げて、弟は大きく頷いた。
ほら、大地の子じゃなくても、笑っている。
父の作った足枷が、トールを大地につなぎとめる「定着」。
トールはマーロウ家の子。
ルーシャの弟。
それで良いと、思っていた。