〜前略、温泉街にて〜
リレー企画『輝ける星光』関連作品です。
作者:CORONA
満天の星空が夜を照らし、涼しい風が火照った身体をひんやりと冷やしていく。
アストライアの一行は日頃の冒険の疲れを癒すため、東大陸カスミガにある、とある温泉街へとやってきていた。
すでに日は落ちているが、街にはまだたくさんの人々が出歩き、とても賑わっている。他の街ではよく見かける争いもなく、とても平和だ。
ここにいる殆どの人が温泉を楽しみにきているのだ、疲れを取るために来ているのにわざわざ争いたくはないのだろう。日は沈んだとはいえ、夜はまだ長い。まだまだこの活気は続くはずだ。
「ふぅ……いい湯だった、温泉とは真に良いものだな」
この街の温泉は質が良いことで有名だ。身体にたまった疲れをほぐしてくれる。それがこの街に人が集まってくる一番の理由だろう。
皆で温泉をゆっくりと楽しんだ後、部屋に戻るとレリオやスキンクが大量の酒を買い込んできていた。それを見た他のメンバーがレリオ達の部屋へと集まり宴会を始めてしまった。ノイウェルはまだ酒を飲めないのでリリナと共に街の見学へと行ってきていたのだが、一時間ほどして帰ってくると、部屋は大変なことになっていた。
「……いったいこの惨状はどういうことなのだ?」
「私にもわかりません……」
それなりに広い部屋の隅々にまでアルコールの匂いが充満し、その匂いを嗅ぐだけで酔ってしまいそうだ。皆はというと、とてもひどいことになっている。
部屋の中心ではレリオとスキンクがなにやら爆笑しながらまだ酒を飲んでいる。そのスピードは速く、あっという間に酒がなくなっていく。
部屋の隅では竜人族であるルイとエレーナが酔い潰れたのかぐっすりと眠っている。奥では完全に酔っているリーナが、顔を真っ赤にし、少しふらついているラグナにまだ酒を飲ませようとしていた。部屋の奥ではアウロが外を眺めながら1人で酒を楽しんでおり、霧川禾槻とハウエンツァはいないようだ。まぁ、ハウエンツァは居ても皆が嫌がるので居ないほうが好ましい。彼が居なくても問題ないだろう。
「あ、ノイウェル君、リリナさんお帰りなさい」
その惨状を眺めていると背後から聞き慣れた声が聞こえた。振り替えると目に入るのは褐色の肌と蒼色の髪をもつ青年、霧川禾槻だ。
「禾槻、これは一体どうなっているのだ?」
「ああ、実はレリオさんが……」
禾槻の話によると、最初は皆、楽しんで酒を飲んでいたらしい。スキンクと意気投合したレリオは2人で酒を飲み続け、20分もすると酔っぱらったレリオは他のメンバーに絡み、無理矢理酒を飲ませ始めたらしい。それを察知した禾槻は早々に素早く退席し、今迄時間を潰していたらしい。
「私はあの2人を止めてきます」
「あ!ちょっと待ってリリナさ……」
霧川の制止も虚しく、リリナはレリオ達を止めようと近づいていく。
「レリオ様、今すぐに酒を止めください。ノイウェル様が困っています」
「おー、リリナじゃないか!お前も飲め飲め!」
リリナがレリオを止めようとするが、話が噛み合っておらず、反省している様子も見えない。それどころかリリナにまで酒を勧めている。さすがにリリナは酒を飲もうとはしないが、そういう問題ではなかった。 いつの間にか背後に忍び寄っていたスキンクが、リリナを羽交い締めにし、動きを封じる。レリオは慌てるリリナに近づき、手に持っていた酒を強制的に飲ませ始めた。
飲ませている酒は『魔物殺し』、極めて強い酒であり、魔物でさえ倒れると例えられた酒である。
そんなものを飲み慣れてない者に飲ませるとどうなるか……。
「く……はっ…………!」
顔を真っ赤にしたリリナはフラフラとよろめいたかと思うと、倒れてしまった。
その光景を見たレリオとスキンクはというと、ハイタッチしながら笑っている。
「よっしゃ、大成功!」
「俺達のコンビは無敵だぜ!」
「「あっはっはっは!!」」
「禾槻、行くぞ。どうやら余たちでは止めることは不可能なようだ……」
「……うん、そうみたいだね」
ノイウェルと禾槻は、止めることは不可能と判断し、そそくさと退室していく。
こうしてアストライア一行の夜は過ぎていった。
後日、レリオとスキンクがリリナにこっぴどく怒られ、お仕置きを受けたのは言うまでもない。