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第3話:外堀埋め立て完了! ――もう、もっさり幼馴染なんて呼ばせません

明日はアルフレッドの休暇の日だ。


 アルフレッドは休暇といっても何をするわけでもなく、よれよれの私服でクラウディアの家のリビングでゴロゴロしているか、番犬よろしくクラウディアの用事についてくるしかないのだ。


 よし、あのよれよれの私服を改造してやろうではないか。


「アルフレッド様の私服改造計画?だったらいいお店あるわよ。」


 今度のアルフレッドの休暇はキャサリンおすすめのお店を回ることにする。

 アルフレッドは世界を滅亡させる時に今まで貯めたお金でありったけの魔石を買い漁っていた。

 きっと今も騎士団の給料を全て貯め込んでいるに違いないわ。お金を使っている所見たことないもの。できるだけお金は消費させないといけないわ。


 現在、アルフレッド改造計画に夢中になるあまりクラウディアの推し活は中途半端になっているのだが、それを指摘する人はいない。

 アルフレッド改造計画が面白すぎるためだ。

 

「アルフレッド、明日は私服を買いに行くわよ。」


 一人やる気をみなぎらせるクラウディアにアルフレッドがいいよと微笑んだ。


「どんな服が欲しいの?」


 給料入ったし買ってあげるよと親戚のおじさんのようなアルフレッドにクラウディアはビシッと釘を差す。


「私の服じゃないわよ。アルフレッドのよ。全く騎士服以外はまともな服一つもないじゃない。」


 これでは、せっかく今アルフレッドを応援してくれる令嬢たちの熱が冷めてしまう。

 絶対にいけないわ。アルフレッドには素敵なお嫁さんを見つけてあげないと。


「別に私服なんてなくても困っていないんだけど。」


 うっ、でも大丈夫。クラウディアはこんな時に彼を動かす言葉を持っている。


「騎士服もいいけど、素敵な私服を着ているアルフレッドが見たいわ。」


 きっと楽しい休暇になると思うのよね、っと続けるクラウディアにアルフレッドが飛びついた。


「行こう。クラウディア、なんだかすごく楽しみになったきた。」


 翌日、いつも通りヨレヨレの私服を着たアルフレッドが現れる。だが、何ということなのだろう。


 いつものヨレヨレのはずなのに、こなれ感のあるイケメン風に見える。顔か?顔なのか?


 だが、これでキャサリンの紹介してくれた店に無事入れるに違いない。




 如何にも気難しげなマダムがアルフレッドを上から下まで見る。深く頷いたマダムは大量の服を持ってきた。


「このこなれた服も素敵ね。創作意欲が、誰かかスケッチブックを持ってきて。」


 興奮気味のマダムと無表情のアルフレッド。確かに背が高くバランスよく筋肉がついたアルフレッドはヨレヨレの服を野性味溢れる着こなしでにこの高級感溢れる空間にマッチしていた。


「どれが良い?」

 取り敢えず無難そうなものを数点選んで試着室に入ってもらう。


「はうっ。私の服が。」


 マダムが興奮している。無理もない。良く似合っていた。


「アルフレッド、すごく素敵だわ。」


「じゃあ、マダム。これに合う服をクラウディアにも。」


 マダムがセットでデザインしたという服を持ってくる。


「いいえ、私には不要よ。アルフレッド。」


 こんな高い服無理よ。


「お弁当の御礼だよ。クラウディア受け取って。」


 さり気なく微笑むアルフレッドが強烈なイケメンに見える。いいえ、これは私の教育の賜物ね。クラウディアは自画自賛する。

 この細やかな心遣い、きっと女子の心を鷲掴みにするに違いないわ。

 それに、悪いことに使わないように散財させる目的が達成されるから良しとしよう。

 クラウディアは教育的観点から嬉しいわと御礼を言ってありがたく頂戴したのだった。




「あらっ。お昼の時間みたいだわ。」


 そう、あれから私たち推し活仲間はアルフレッドたちとお昼を食べている。アルフレッドの友人の騎士たちも参加して。

 騎士たちもあからさまなシュバイデン様狙いのアリスに嫌気が差していたらしい。


 彼らは、ふたりきりでよろしくやっておけば良いのだ。

 私たちはあくまで推し活。推しが幸せそうであればそれで良いのだよ。


「お腹ペコペコ。今日のご飯は何?」

 

 午前の練習を終えた騎士たちがわらわらとやってきた。

 あの無口でひょろひょろだったアルフレッドにこんなにもたくさん友人ができていたとは。クラウディアは感無量だった。


 魔術師向きのアルフレッドが騎士団に入ると行った時クラウディアが止めたのは友人が出来るはずないと思ったからだ。

 なのに、みんなでわいわいと楽しそうではないか。

 

「これが楽しみで今日も頑張れたんだ。アルフレッドに感謝だな。」


 騎士たちも令嬢達もこのランチ会を楽しみにしてくれているらしい。良きかな良きかな。

 たくさんの種類の食べ物を持ってきてくれるので皆楽しそうだ。

 それに令嬢達も泣く泣く諦めていた騎士交流試合のチケットを騎士達からお礼として貰えたことで嬉しいらしい。

 チケットはクラウディアがアルフレッドから貰ったのと同じ家族席。人気の試合を間近で見られるとあって興奮気味だ。


「マーガレット、ランチの御礼に今度何かご馳走させてよ。」


 筋肉ダルマのトーマスが可憐なマーガレットに話しかけている。

 あらっ?なんだか周辺がすごくよい雰囲気だけど。気の所為よね。クラウディアは辺りを見回した。普段女っ気のない騎士たちがクラウディアが厳選した性格の良い令嬢を狙っているではないか。

 駄目よ。アルフレッドに良い子を見つけてあげないといけないのに、このままだったら他の騎士たちに取られてしまうわ。


 その時

「クラウディア、これ一緒に買った服だよね。よく似合っている。」

 アルフレッドがクラウディアの服を褒めた。アルフレッドでかしたわ。これよ。


「そう、この前アルフレッドがプレゼントしてくれたのよね。」


 どうだ。アルフレッドは経済力があるし、気前よく服だってプレゼントしてくれるんだぞ。

 令嬢たちよ、カモン。


「まあ。素敵ね。」


 おおっ。一番の有望株マーガレット嬢が食いついた。良し。これでアルフレッドの未来は明るい。

 クラウディアはアルフレッドの口におかずを次々と放り込みながら、マーガレット嬢の手元を見つめた。彼女の手元にはピックに差したハムが。


 よしっ、アルフレッドはハムも好きよ。そのハムをこの口にいれなさい。クラウディアの手が見本を見せるようにアルフレッドの口へと向かう。

 ぱくん。ほうら、餌付けのようで楽しいぞ。


 すると、筋肉ダルマの騎士トーマスが彼女の手元のハムをパクっと食べたではないか。横取りか、おのれトーマス。そこへなおれ。


 しかし、真っ赤になるマーガレット嬢。見つめあう二人。むむむ。うちのアルフレッドのお嫁さん候補を。よくも筋肉ダルマトーマスめ。


 その時アルフレッドがピックでいちごを差した。そうよアルフレッド。あの筋肉ダルマからマーガレットを取り戻しなさい。


「クラウディア、あーん。」


 へ?あっけにとられて開いた口にいちごが放り込まれる。

 その動きをトレースするように、筋肉ダルマや他の騎士たちもそれにならい始めたのだった。



 騎士交流試合はこの国の一大イベントだ。優勝者は出世するから騎士たちはこの日のために研鑽を積む。


 アルフレッド推しだったメンバーたちは今、幸せそうに仲良くなった騎士たちと話している。ちっ、裏切り者め。

 クラウディアの心は荒んでいるというのに。こうなったらアルフレッドの格好良いところを思う存分見せて新しい令嬢をゲットしてやるわ。


「アルフレッド、わかっているわね。今日はみんなに格好良いところを存分に見せつけてね。優勝あるのみよ。」


 驚いた顔のアルフレッド。あら?どうしてかしら?


「シュバイデンに花を持たせなくていいの?」


 え?私がいつそんな事を行ったのかしら。もしかして、今までアルフレッドが万年2位に甘んじていたのは?いえ、考えすぎね。


「アルフレッド、今日はあなたの格好良いところをしっかり見せてみんなをほれさせるのよ。楽しみにしてるわ。」


 これできっとアルフレッドに惚れる令嬢がわんさか湧いてくるに違いないわ。


「優勝しても、花をくれる令嬢がいなければ格好がつかないよ。」


 いじけるアルフレッドが可愛そうだわ。そうね、優勝者には女性たちが群がって花を贈るのよね。誰もいなかったら。

 アルフレッドでなくても恐怖だわ。


「わかったわ。アルフレッド。私が花をあげるから必ず優勝するのよ。」


「うん。優勝して必ず惚れさせてみせるよ。だから花をちょうだいね。」


 嬉しそうにはにかむアルフレッドに、これまでそんな不安があったのにいえなかったのねと可哀想になる。

 アルフレッド推しの令嬢たちはみんな他の騎士と良い感じだし。仕方ないわ、私だけでも応援してあげないと。


「アルフレッド、頑張るのよ。私だけはあなたを応援してるから。」


 クラウディアがぶんぶん手を振って応援する。


 彼女に嬉しそうに手を振ったアルフレッドは、闘技場に降りて行ったのだった。





「きゃあ、トーマス様がアルフレッド様相手に善戦しているわ。」


 あのマーガレットが普段のおしとやかさをかなぐり捨てて叫んでる。

 おのれ筋肉ダルマめ。マーガレットを返せ。


「アルフレッド、とっとと格好良いところを見せなさい。」


 その途端、アルフレッドの剣が一閃する。トーマスに傷一つ追わせることなく、頭の的のみを切り裂いたアルフレッドに場内が湧く。


「勝者、アルフレッド。」


 どうだ、強いだろう。うちのアルフレッドは格好良いんだ。鼻高々のクラウディアをよそに、マーガレットが場内にいる負けたトーマスの元へと走っていった。


「トーマス」


「負けちまった。カッコ悪いな俺。」


 怪我一つないトーマスが頭をかく。


「いえ、トーマスは誰よりも格好良いわ。」


 マーガレットが彼に歩み寄った。


「マーガレット。」


 本来なら勝者に渡す花をマーガレットがトーマスに渡したのだった。場内は暖かな拍手で満ちる。

 不覚にも、もらい泣きしてしまったクラウディアは正気に返った。

 駄目よ。次は決勝だというのにアルフレッド推しの令嬢たちが負けた騎士に花を渡し始めたじゃない。勝っても負けてもアルフレッドがもらえる花はクラウディアの花一つだけ。


 次は決勝、シュバイデンとアルフレッドの試合だというのに何たる事。喝をいれなければ。


「アルフレッド、この花が欲しければ次絶対に勝つのよ。」


 アルフレッドがにっこり笑ってこくりと頷いたのだった。



 決勝戦が始まる。


 シュバイデンはこれまで華麗な剣捌きで対戦相手を屠ってきた。そう文字通り屠ってきたのだ。

 シュバイデンと対戦した相手はみんな負傷している。アルフレッドは大丈夫かしら?怪我はしないか心配になってきた。

 シュバイデンの華麗な剣捌きにアルフレッドが圧倒されているように見える。


 駄目よ。このままではアルフレッドが負けるわ。焦るクラウディアは叫ぶ。


「アルフレッド、お願い勝って。」


 その言葉にアルフレッドが口元に笑みを乗せて、花を強請るように手を振る。


「アルフレッド、花はあげるから前を向きなさい。危険よ。」


こちらに手を振るアルフレッドの隙をつくようにシュバイデンの剣がアルフレッドを襲う。


「あっ。」


 やられたわ。しかし、その瞬間、間合いに入ってきた剣をアルフレッドが弾き飛ばす。

 空へと弧を描いて高く上がったシュバイデンの剣。

 アルフレッドは、シュバイデンに一筋の傷も付けることなく胸の的だけを貫いて壊したのだった。


「勝者、アルフレッド。」


 その声にアルフレッドが咆哮する。いつも物静かなアルフレッドしか見たことのないクラウディアにそれはひどく新鮮にうつったのだった。


 クラウディアが約束の花をアルフレッドへと手渡した。


「クラウディア、ありがとう。」


 笑顔のアルフレッドは今も髪の毛一本も乱れず、土埃一つなくキラキラだ。

 もうあのもっさり感は一片もない。この完璧クオリティのイケメンぶりにクラウディアは満足する。

 どう?うちの子やれば出来るのよ。皆さんこの子、将来優良物件ですよ。騎士団一強いし、魔力もお金もたんまり貯め込んでいますよ。


 アルフレッドに最高の花嫁をと観客席を振り返ろうとしたクラウディアは花を持っていた手をぐいっとひかれてバランスを崩した。


「きゃあ」

 

 ドスンと厚い何かにくるまれて、クラウディアには衝撃はなかった。恐る恐る目を開けたクラウディアはアルフレッドの腕の中にいたのだった。

 へ?


「ありがとう、クラウディア。花をくれるなんて嬉しいよ。」


 アルフレッドったら、こんなチンケな花の一本くらいでどうしたのかしらね。

 

 次の瞬間アルフレッドは声を張り上げた。いや静かに、だが、拡声魔法を使っているのか闘技場中に響くような圧倒的な声量。


「私アルフレッドは優勝の副賞として、花の乙女との結婚を希望します。」


 湧き上がる拍手とスタンディングオベーション。

闘技場は一気にお祭り騒ぎとなったのだった。





「あちゃー。この情報通のキャサリン様としたことが、クラウディアに優勝者に花を贈る意味を教え忘れていたわ。」


 キャサリンがイタズラっ子のように観客席で成り行きを見守る。


 この国で騎士交流試合の優勝者に花を贈るのは、私を貰ってくださいという意味。

 優勝者は花を受け取ることで公にふたりの結婚は認められるのだ。


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