第1話:私の推し活のために、もっさり幼馴染をイケメンに改造します!
「シュバイデン様、素敵!!」
女性たちの黄色い歓声に答えるのは爽やかな騎士。練習中にもかかわらず、女性たちの人だかりが出来ている。
その中で一際高い声援を送っているのがクラウディアだ。彼女の喜び、それはシュバイデン様の推し活なのだ。
「クラウディア、今日もシュバイデン様とっても素敵だったわね。明日も楽しみだわ。」
推し活仲間のキャサリン。彼女との会話もこの推し活の楽しみのひとつである。
推し活を通じて出会った大切な友人なのだ。
「ええ。素敵だったわ。」
今日のシュバイデン様の勇姿を思い出してうっとりするクラウディアにキャサリンが提案した。
「そういえばクラウディア、今日新しく出来た占いの店にいくんだけど一緒にいかない?」
占い。女子は興味があるのだ。だが、クラウディアは両親との約束で騎士団へ遊びに行くときには幼馴染のアルフレッドに送迎してもらわねば外出禁止になってしまうのだ。
「そうね。楽しそう。キャサリン、ちょっと待っていて。アルフレッドに言ってくるわ。」
クラウディアは騎士としてシュバイデンと共に汗を流すアルフレッドのところへ終わったらキャサリンと行く店まで迎えに来てと伝えに行ったのだった。
占いの館は若い女性たちで行列が出来ていた。占いを待つ間の女子トークも楽しみの一つだ。
「そう言えばクラウディアってアルフレッドと婚約しているの?行き帰りは必ずアルフレッドが送迎しているわよね。」
キャサリンに悪気はない。だが、クラウディアはいつもこの手の勘違いをされて少し嫌なのだ。
「アルフレッドはただの幼馴染よ。」
アルフレッドとクラウディアはただの幼馴染にすぎない。だが朴訥とした幼馴染のアルフレッドはクラウディアが心配らしく、また両親もアルフレッドに絶大な信頼をおいている為、必ず送迎をしてくれているだけなのだ。
彼が騎士団に入団したのだって、クラウディアが推し活をスムーズに行えるようにだったりするのだから。クラウディアにとってはありがたいがアルフレッド本人には全く利点などないのだ。
「でも、おかげで騎士交流試合のチケットをいただけたんだから。アルフレッド様には足を向けて寝られないわ。」
そう理論派で魔力の多いアルフレッドは本来なら騎士団ではなく魔術師としての将来が嘱望されていたのだ。
なのに、クラウディアの推し活に役に立つからと騎士団に入ったのだった。
「アルフレッドのおかげね。アルフレッドも騎士団なんて向いてないと思っていたけど、がんばってるものね。」
ひょろひょろと痩せていたアルフレッドは持ち前の理論で己を鍛え上げた。
一ヶ月も持たないだろうと思われていた騎士団勤務を順調、いやそれどころか、今や花形シュバイデン様と並ぶ実力の持ち主となったのだ。
「ええ、今度の優勝候補シュバイデン様とアルフレッド様だものね。アルフレッド様がもう少し見栄えが良ければねえ。」
キャサリンがそういうのも無理はない。アルフレッドは真面目で性格も才能もあるのに、全体的にもっさりしている。ボサボサと長く伸びた前髪と無精髭で顔は一切見えないし、必死で練習しているからか土埃でうっすら汚れているのだ。
いい子なのに、女子には全くもてない。可哀想な男、それがアルフレッドなのだ。
☆
「次の方。」
ようやく順番が来て受付に呼ばれて個室に入る。
黒いベールを深く被った占い師の前には丸い水晶玉。いかにもな雰囲気にクラウディアはなんだか楽しくなった。
キャサリンもそうなのか、興奮気味にクラウディアも占いをしよう、と勧めてくる。
「自分の知りたいことを念じてこの水晶玉に手をかざしてください。」
キャサリンが手をかざした。
水晶玉がふわりと幻想的に光った。キャサリンがその光を見つめる。クラウディアの目には光しか見えないがキャサリンには何かが見えているようで、嬉しそうに微笑んだ。
「クラウディア、とても素敵だったわ。私、頑張るわ。クラウディアも見るべきよ。」
キャサリンの様子に興味津々のクラウディアも乗り気になった。
「じゃあ、私も。」
クラウディアが水晶玉に手をかざす。彼女の意識は強烈な光の中に飲み込まれたのだった。
☆
クラウディアは空から闘技場を見下ろしていた。
なんとクラウディアは今度の騎士団交流試合で優勝したシュバイデン様から、婚約を申し込まれていたのだ。
嬉しくて、飛び上がりそうなクラウディア。
しかも幼馴染アルフレッドも騎士団長令嬢のアリスとの婚約が決まったのだ。
だが、クラウディアの幸せはそこまでだった。キャサリンは他国へ嫁ぎ、推し活仲間とも溝ができ、アルフレッドとも会えなくなったクラウディアは孤独になる。
そして、数カ月後、シュバイデンからアリスと結婚したいので婚約破棄してほしいと言われ失意の内に自ら命を断つのだ。
なんてことなの。意気消沈するクラウディアだったが、事態はそれだけでは終わらなかった。
その後、婚約者の裏切りに怒り狂った幼馴染アルフレッドが国を滅ぼすというなんとも悲しい結末。
私はともかくアルフレッドまで不幸になった挙句国が滅亡するなんて。クラウディアは決意した。
どうせ破局するなら絶対に婚約はせず、あくまで推し活に専念するのだ。
そして、ここからが重要だ。アルフレッドが破局して国を滅亡させないように他の女性と結婚させるのだ。
その為にはあのもっさりした見た目をどうにかしなくては。彼をダサ男から普通の青年へと垢抜けさせるのだ。
いえ、それだけでは足りない。徹底的に女性の扱い方を覚えさせなければ。
「クラウディア、どうだった?」
幸せそうなキャサリンが聞く。
「ええ。なかなか頑張りがいのある未来だったわ。」
クラウディアが密かにアルフレッド改造計画に燃えていると、占い師が厳かに口を挟んだ。
「この占いは現時点での未来を示しています。将来はいくらでも変えられます。」
その言葉に勇気をもらったクラウディアは早速未来を変えるべくアルフレッドを改造することにしたのだった。
☆☆☆
「クラウディア帰ろう。」
占いの館を出ると任務が終わったアルフレッドがそこに佇んでいた。
クラウディアはアルフレッドを上から下まで値踏みした。シルエットは悪くない。
「アルフレッドありがとう。」
この優しいアルフレッドを捨てるなんて許せない、クラウディアは自分が婚約破棄されることよりもアルフレッドが捨てられたことのほうが許せなかった。
アルフレッドの腕を見込んだ騎士団長から婿に見込まれるのだ。しかし彼の瞳が気に入らない令嬢アリスに蛇蝎のように嫌われるのだ。
なんとか関係を作ろうと努力するアルフレッドだったが結局シュバイデン様に寝取られてしまう。
私たち二人とも被害者じゃない。
そりゃあ、あのキラキラしたシュバイデン様と比べたらアルフレッドはダサくて地味だし、いつも薄汚れているけど、誰よりも誠実だし真面目なのだ。
あんな捨てられ方は可哀想すぎる。
クラウディアは薄汚れたアルフレッドに向き直った。
「アルフレッド、きちんと毎日お風呂に入らなければ駄目よ。」
まずはそこからだ。ちいさなことからコツコツと。
「クリーン」
アルフレッドが呪文を唱えると、彼の汚れが全て無くなった。さすがアルフレッド、やればできる子なのだ。
しかし、このもっさりと顔を隠している髪と無精髭が邪魔だわ。
背も高いし、体格もいいのよ。多少顔の造作が悪くたって髪を整えて清潔感を出すだけで、そこそこ見られるようにはなるんじゃないかしら。
「アルフレッド、しゃがんで。」
クラウディアはアルフレッドの前髪をバサッとあげた。うん、無精髭が邪魔だけど意外と造作は悪くない。
アルフレッドの真っ赤な瞳が泳ぐ。そうなのだ。アルフレッドはこの真っ赤な瞳がコンプレックスなのだ。アリスに嫌われる原因もこの瞳の色だ。
しかし。こんなに綺麗な瞳なのにもったいないわ。この瞳が好きだと思ってくれる人と結婚したら良いじゃない。
「アルフレッド、明日この前髪を切りましょう。」
アルフレッドにとってクラウディアの命令は絶対だ。しかし。
「いやだ。どれだけクラウディアの頼みでも、それだけは勘弁してくれ。」
アルフレッドが珍しく抵抗する。だが、クラウディアは切り札を持っていた。
「明日、帰りに切りに行くわよ。行くならお弁当を作ってあげるわ。」
「うう。毎日?」
敵もさることながらクラウディアも考えた。毎日か、毎日はさすがに厳しい。アルフレッドは言い出したら聞かない。ここで毎日と約束してしまったら死ぬまで毎日作らされる羽目になってしまう。
そうだ、期限をつけよう。
「次の騎士交流試合までなら、毎日作ってあげるわ。」
騎士交流試合は2週間後だ。それならばお安い御用なのである。
「ほんとう?」
アルフレッドの口角が上がる。本当にこの前髪と無精ひげのせいで表情が読めない。邪魔すぎるわ。
「ええ。それに、私アルフレッドの瞳の色が好きなの。隠すなんてもったいないわ。」
これは本音だ。アルフレッドの赤い瞳は気味が悪いという声もあると聞くが、クラウディアはルビーみたいで本当に綺麗だと思っているのだ。
「あ、ありがとう。」
うつむいたアルフレッドの全身が真っ赤になった。
照れているのかしら?
自分よりもずいぶん大きな幼馴染がなんだか可愛く感じたクラウディアだった。
不遇な未来を回避するため、もっさり幼馴染のプロデュースを始めたクラウディア。
次回、アルフレッドが劇的ビフォーアフターを遂げます……! お楽しみに!




