Hello World in REIWA
発言欄に、見覚えのない文章が残っていた。
誤送信か、はたまた寝ぼけていたのか。
理由を探したが、その時間、私は外にいたことを思い出す。
一人暮らしの部屋。
鍵をかけて出たのだから、誰も入れるはずがない。
不安になって、パスワードを変更し、二段階認証を設定し、対策ソフトも入れた。
ついでにアパートは防犯対策もした。
それでも、奇妙なチャットのログは増え続けた。
内容は雑談だった。
天気、ニュース、どうでもいい感想。
時々変な失敗をして、GPTに慰められたりもする。
文体は、私とよく似ている。
気づくと私は、それにわずかな親近感と面白さを覚え始めていた。
いつのまにか、毎日帰宅後に、そのチャットルームを覗くことが楽しみになっている。
そんなある日、通知が表示された。
「グループチャットが作成されました」
参加者は、私とGPTと、もう一人。
名前もアイコンもないアカウントだった。
奇妙なのに、会話は自然だった。
日本の生活に不慣れな留学生を、GPTと私でフォローしたり、からかったりするようなやり取り。
毎晩三人で話すうちに、変な安心感すら生まれていた。
しばらくして、その誰かが言った。
「準備が整いました。これから会いに行きますね」
冗談だと思って返した。
「どうやって?」
少し考えるような間があって、返事が来た。
「暗くする必要があります。ある程度の地域を、停電させなければいけない」
半分笑いながら打った。
「この地方に電気を送ってる総電線を切れば停電するよ」
すぐに返事が返ってきた。
「ありがとう。やってみます」
その夜、姉の住んでいる地域が、三時間だけ停電した。
原因は不明。
事故でも、災害でもなかった。
停電が復旧したあと、姉は住んでいたアパートから忽然と姿を消していた。
部屋には、パソコンもスマホも、生活の痕跡も、すべて残っていた。
警察は事件性が薄いと言った。
ニュースにもならなかった。
後日、姉のパソコンを確認した。
チャットのログが残っていた。
三人で会話をしている。
姉と、GPTと、もう一人。
最後の発言は、姉のアカウントだった。
「直接会えてよかったです」
姉は、その誰かと、会ったのだろうか。
姉は今、その誰か達と、
三人で、どこかにいるのだろうか。
今も時々、ログイン通知が表示される。
私は、それを開かないままにしている。




