第七話 横に立つ女
秩父リニアライン駅に、シン・ニシウラワは立っていた。
人工岩盤に囲まれたプラットフォーム。
発着表示が静かに点滅し、低い振動が足元から伝わってくる。
「シンちゃん」
声をかけてきたのは、あの女だった。
振り向いたシンの表情が、わずかに揺れる。
困ったような、予想外を前にした顔。
クミが問う。
「なぜ、ここに?」
「……約束のため」
「あたしとの?」
「ち、違う」
やや慌てるシン。
その反応は、彼を知る者なら誰でも違和感を覚えるものだった。
少し離れた位置で見張っていた二人のエージェントが、その様子に驚き、顔を見合わせる。
「目標に接触あり。何者だ?」
内耳通信と同時に、エージェントの網膜に情報が展開される。
クミ・イノウエ――
名前、年齢、居住履歴。
一般市民としての個人情報が表示される。
だが、
シン・ニシウラワとの関係を示す項目は、どこにも存在しない。
「一般市民か……」
一人が低くつぶやく。
「だが、一般市民がなぜ奴と知り合いなんだ」
もう一人が、二人の距離感に目を細めた。
「呼び捨てだぞ」
一拍置いて、続ける。
「あの雰囲気……ただの知り合いでもなさそうだな」
リニア到着を告げるアナウンスが、プラットフォームに響く。
風が吹き抜け、二人の間をすり抜けていった。
データにない関係。
記録されていない過去。
その女は今、シン・ニシウラワのすぐ横に立っていた。




