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第二十九話 視線
「どうだ?」
「音声は今ひとつだが、口元の映像は撮れた」
「なら、あとは映像解析班に任せるか」
モニターに映るのは、公園の一角。
二人と千葉県職員が向かい合っていた、ほんの数分前の記録だ。
「交渉決裂、という雰囲気ではないな」
「穏便に終わったか」
「あるいは、欲しい情報は得られたのかもしれない」
「いずれにせよ、そのうち千葉への浸透エージェントからも情報は入るだろう」
「解析結果と合わせて判断だな」
操作員が、何気なく監視カメラの映像を拡大する。
その瞬間だった。
画面の中で、シンが、こちらを向いた。
偶然ではない。
レンズの位置を、正確に捉えている。
「……!」
操作員は反射的に頭を下げていた。
意味のない行為だと分かっていても、身体がそう動いてしまった。
そっと視線をモニターに戻す。
そこには、もう二人の姿はなかった。
まるで、「見ていること」そのものが、許されていなかったかのように。
室内に、誰も言葉を発しない時間が流れる。
解析班に回すべき映像は、確かに残っている。
だが同時に、全員が理解していた。
――こちらが見ていた以上に、向こうは、こちらを見ている。




