第二十八話 蚊帳の外
「わかりました」
千葉県の職員は、深く踏み込むことなく頷いた。
「質問への回答はいただけませんでしたが、今後の方針を検討する材料は、充分に得られました」
一度、言葉を区切る。
「千葉が蚊帳の外にいるのであれば、あなたの雇い主も、目的も、知る必要はありません」
視線を伏せ、静かに続けた。
「……むしろ、知らない方がいいのかもしれません」
それは、撤退宣言だった。
「後は、上層部の判断次第となるでしょう」
「本日は、お時間をいただき、ありがとうございました」
一礼。
「それでは」
職員は、それ以上何も言わず踵を返した。
足音が遠ざかり、公園には再び静けさが戻る。
シンは、去っていく背中を見送ったまま、小さくクミに囁いた。
「……おまえな」
クミが首を傾ける。
「連中が実力行使で来たら、どうするつもりだったんだ」
クミは、くすりと笑った。
「だって、シンちゃんが守ってくれるでしょ」
あまりにも当然のように。
シンは、短く息を吐いた。
小さなため息。
それは諦めにも、呆れにも聞こえた。
――彼を知る者なら、誰一人として想像できない光景だった。
戦場でも、交渉の場でも、常に一線を引き続けてきた男が。
今はただ、一人の女の「信頼」を前に、言葉を失っている。
公園の静寂は、その不釣り合いな距離感を、優しく包み込んでいた。




