第二十六話 偶然
ファストフード店。
「――シンちゃん」
呼ばれて、シンは顔を上げた。
そこに立っていたのは、クミだった。
シンが何か言おうとした、その瞬間。
「ふふっ。偶然よ」
先手を打たれ、シンは呆れたような、困ったような表情になる。
「……偶然か?」
「そ。偶然」
クミはコーヒーを手に取り、当然のように向かいの席に座った。
「もうすぐ、始まるわね」
「……」
「そうしたら――」
言葉が途切れた。
「ご歓談中に失礼」
割って入る声。
「私たちは、こういう者です」
差し出された名刺には、簡潔にこう記されていた。
千葉県庁 特務課
クミが、自然な笑顔で名刺を受け取る。
「どんなご用でしょうか?」
「できれば、お二方にお話を伺いたいのです」
「ご同行いただけないでしょうか」
シンは視線を上げない。
「俺は、ここでも構わない」
ちらりと、クミを見る。
「私は、構わないわよ」
名刺を出した男は、わずかに言葉を選んだ。
「……いや」
「話の内容が内容なので、できれば静かな場所で」
クミは首を傾げる。
「静かな場所でも、話せないことはありますわ」
男が逡巡している、その間に――
シンはトレイを持ち、ゆっくりと立ち上がった。
何も言わず、出口へ向かう。
その後ろを、クミが当然のようについていく。
一拍、迷った末、男もそれに続いた。
「ありがとうございましたー」
店員の明るい声を背中に受けながら、三人は店を出る。




