第二十一話 推薦
通信が切れた。
静寂が戻った室内で、男は横に座る女へと視線を向ける。
「イノウエさん。彼は――予想以上に動いてくれています」
「あなたの推薦は、確かでした」
クミは穏やかに頷く。
「彼は、きっと受けてくれると思いましたので」
男は小さく息を吐いた。
「正直に言えば、受けてくれるとは思っていませんでした」
「最初は、別の工作員を使うつもりでいたのです」
椅子にもたれ、過去を思い返すように続ける。
「もしそうしていたら、ここまで順調にいったかは疑わしい」
「実際、最初は渋られました」
「名乗っただけで、追い返されそうになった」
クミは何も言わない。
「あなたの推薦だと告げて、ようやく話を聞いてくれた」
「……助かりましたよ」
沈黙。
「目的さえはっきりしていれば」
「指示などしなくても、最適解を選んでくる」
「まさに――ワンマンアーミーだ」
クミは、やや真剣な表情で言った。
「彼は、道具扱いされるのを嫌います」
「分かっています」
男は即座に答える。
「だからこそ、ただの道具には任せられない仕事だ」
クミは、少し間を置いてから口を開いた。
「私が彼を推薦したのは……」
「彼を、ここへ連れ帰りたかったからです」
微笑む。
「そのために――あなた方を利用したとも言えますね」
男は短く笑った。
「フッ。それでも構いません」
「誰も、損はしていませんから」
一拍。
「……いや」
「彼だけは、少し不本意かもしれませんが」
クミは、変わらぬ微笑みで答えた。
「ちゃんと、納得してもらいましたから」
その笑顔は、作戦の成功を喜ぶものでも、勝者のものでもなかった。
ただ――ようやく“帰ってきた”存在を、確かめるような微笑だった。




