第十八話 帰還
担当官が卓上のホログラフ地図を指し示した。
「これが――三日間の、彼の立ち回り先です。イノウエさん」
クミは地図に目を落とし、軽く頷く。
「ありがとうございます」
一拍、担当官は言葉を選ぶように口を開いた。
「ところで……」
「はい?」
「彼は、なぜ我々の仕事を受けたのでしょうか?」
クミは一瞬だけ目を細め、すぐに微笑む。
「あら。受けてもらえると、思っていなかったのですか?」
「正直なところ……」
担当官は肩をすくめた。
「彼は、戦えればどこでもいいという人ではありませんし、お金に目がくらむような人でもありません」
クミは静かに言葉を継ぐ。
「何か、思うところがあったのでしょうね」
「思うところ……ですか」
担当官は首をかしげる。
「我々の知る彼は、センチメンタルに左右される人物ではありません」
「イノウエさん。あなたなら、分かるのでは?」
クミは少し困ったように笑った。
「いくらなんでも、それは無理ですよ」
「彼を、なんでも知っているわけではありませんもの」
担当官は、じっと彼女を見つめる。
「……あなたは、我々の知らない彼を知っています」
クミは視線を逸らさず、穏やかに答えた。
「今度会ったときに、聞いてみますね」
それは、明日の予定を確認するかのような、あまりにも気軽な口調だった。
クミは立ち上がり、一礼する。
「では」
部屋を出ていく彼女の背中を、担当官は無言で見送った。
――――
建物を出たクミは、誰もいない通路で足を止める。
そして、誰にも聞こえないほどの小さな声で、つぶやいた。
「やっと……帰ってきてくれたのね」
微笑みが、ほんの一瞬だけ、少女のようにほどける。
「シンちゃん」




