第十六話 雪崩の起点
とある会議室。
場所を示すものは、何一つない。
窓もなければ、県章もない。
あるのは、長いテーブルと、抑えた声だけだ。
「滋賀県が、発表した」
淡々とした報告。
「まだまだだな」
すぐに、別の声が続く。
「このあとにも、控えている」
誰も驚かない。
予定通り、という空気。
「滋賀県も、成功すれば――」
一人が言葉を切り、続けた。
「雪崩を打って、移転が始まるぞ」
その言葉に、誰かが短く笑う。
「それでいい」
笑いには、熱も喜びもない。
「それが、望むところだからな」
別の声が、現実的な条件を付け加える。
「住民も残りたければ残ればいい」
「無理矢理、移住させるわけじゃない」
間。
「だからこそ、トラブルも、面倒も少なくて済む」
誰も反論しない。
選択は自由。
だが、選択肢そのものは、静かに、そして確実に削られていく。
会議室の照明が、わずかに明るさを変える。
誰かが、最後に言った。
「前例は、もう十分だ」
「流れは始まった」
その言葉の中に、NEO埼玉の名は出てこない。
だが、ここにいる全員が、それを前提に話していた。
会議は、短く終わる。
誰も立ち上がる前に、すでに次の計画は動き出していた。
雪崩は、音を立てる前に始まっている。
気づいた時には、もう止めようがない。




