第十二話 ブラックボックスの外側
――NEO埼玉県
県政中枢・戦略会議室
「……千葉が、動くようです」
壁面ディスプレイに、CIAの動向が淡々と表示される。
接触準備。人選。水面下のルート。
「皆、困っているな」
議長席に座る男が、どこか他人事のように言った。
焦りでも嘲りでもない。
事実確認に近い声。
「どうします?」
若い官僚が問いかける。
室内に、短い沈黙が落ちる。
「止める義務も、権利もない」
即答だった。
「そして――」
視線が一段下がる。
「必要もない」
数人が、静かに頷く。
「外部から刺激を与える」
一人が言葉を継ぐ。
「その結果を観察し、仮説と結論を得る」
ディスプレイには、シン・ニシウラワを中心とした複雑な相関図。
線は増え、色は重なり、中心だけが不気味に空白だ。
「ブラックボックス解析は、これしかあるまい」
誰も反論しなかった。
この国で最も新しい県は、最も古い実験手法を選んでいた。
「ブラックボックスを、開けるかどうかは――」
議長が、最後に言う。
「そのあとだ」
会議は、それで終わった。
誰も「危険」という言葉を口にしない。
誰も「制御」という幻想に縋らない。
NEO埼玉は理解していた。
あの男は、管理する対象ではない。
理解するか、巻き込まれるか。
その境界線を見極めるために、彼らは今日も、何もしないという選択をした。
海上に築かれた県庁の外では、人工の波が、規則正しく岸を打っている。
ブラックボックスは、まだ閉じたままだった。




