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プロローグ

「王女さま!どこにいらっしゃいますか〜!」


 遠くから、クラリスの声が聞こえる。私は柱の陰にそっと身を身を潜め、息を殺して声がした方を見やった。青ざめた顔の彼女が、同じ格好をした侍女たちをたくさん連れてきて、広い中庭を駆け回っている。どうやら、まだ私の居場所がわかっていないみたいだった。


「クラリスさま!10分後に歴史の講義の時間が!」


「うそ!?間に合わないわ!ああ、またセラさまに叱られる……!」


 懸命になって探す侍女たちに、私は面白くなって笑い声をあげた。くすくすと、抑えたつもりだったのに、侍女たちが一斉にこちらを向く。まずい、と思って柱を離れた私は、彼女たちとは反対方向へと逃げ出した。


「あ!ミレーナ王女!」


「クラリスさま!姫さまがあちらに!」


 背後から、そんな声が聞こえてくる。慌てて後を追ってくる侍女たちの姿に、楽しくなった私は、えいっと地面に手を振りかざし、それを思いっきり上にあげた。


 その途端、手の動きとともに足元の地面が盛り上がった。魔法を使うなんて思っていなかった侍女たちは、腰を抜かして後ずさってしまう。


「きゃあああ!クラリスさま!どうしましょう!」


「落ち着きなさい!裏庭から回って……きゃっ!なんなの!この地面!」


 走りながらちらりと後ろを見れば、彼女たちは、うねうねと、まるで生きているかのように揺れ動く地面に苦戦していた。


「ふふっ、捕まらないようにしなきゃね〜」


 ばいばーい、と彼女たちに両手を振った私は、中庭からぐるりと回って扉から城の中へと入った。いつもの見慣れた通路をるんるんとスキップしながら通り抜け、階段を駆け上って部屋を目指す。


 それにしても必死だったなぁとくすくす笑った私の目に入ってきたのは、扉の前で背筋を伸ばして待っている教育係、セラの姿だった。


(あ……まずい、遅れたから怒ってる!)


「せ、先生……お早いですね」


 恐る恐る声をかければ、彼女はこちらを向いてメガネをくいっと持ち上げた。


「ミレーナ王女殿下、予定時刻を過ぎています。それに、そのドレスの裾の汚れはなんですか」


「あ、あはは……これは少し遊んでいまして」


 鋭い視線に苦笑いした私は、部屋の目前に控えている侍女たちにとっととドアを開けさせた。まっすぐな姿勢を保ったまま部屋に足を踏み入れたセラは、部屋をぐるりと見渡してふむ、と顎に手をやる。


「なぜ侍女が一人もいないのです?」


「あ、えっと……体調不良かしらね、私は聞いていないわ」


「先ほど、中庭から女性たちの叫び声が聞こえてきましたが?」


「う……き、気のせいよ……」


 相変わらず鋭い彼女に、私は苦しい言い訳を続けた。まぁいいです、と諦めたように呟いたセラは、手にしていた分厚い本をどさっと机に並べる。私が椅子に腰掛けている隙に、本棚からさらに二つの本を持ってくると、また机の上に重ねた。


 なんだかいつもより多い気がする。なんでだろう、間違えているのかなぁと首を傾げれば、セラはいつもの示し棒を片手にまたメガネをくいっとあげた。


「遅れを取り返すために、本日の講義は日が落ちるまで行います」


「え?えぇぇえ!?」


「これは国王殿下からのご命令です。さぁ、背筋を伸ばして!」


 私の抗議の声も虚しく、すでにスイッチの入ったセラは教科書を片手にべらべらと話し始めた。こうなってしまえば、彼女は誰が話しかけても止まらない。


(はぁ……めんどくさいなぁ……)


 勉強に興味のない私は、一応聞いているふりをしながら、彼女の説明に耳を傾けるのだった。

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