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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第八話 触れた指先

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97/226

01

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 (トウ)ノ月、(ケイ)ノ週、(ケン)ノ日 未明

 /結界封印都市ヒモロギ

  尾居土(オイツチ)宿舎 五号棟 六階 六一三室

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

「くぁ……」

 

 ヒミコは自室で目を覚ました。

 

 まだ日も昇りきっていない。

 

 かなり早めの起床である。

 

「あう……おう……もののふ……っ」

 

 訳のわからぬ呟きと共に屍人(ゾンビィ)の如く室内を徘徊(はいかい)するヒミコ。

 

 まだ寝てていい時間とすら気づいていない。

 

 この女、朝に弱いのだ。

 

 おまけに汚部屋(おへや)を作る習性があり、借りて間もない宿舎でも一月(ひとつき)()たぬうちにゴミやら何やらで足の踏み場もない状態にしてしまう。

 

「あー……あー、あー……うー……」

 

 そんな中を、寝惚け(まなこ)覚束(おぼつか)ぬ足取りで彷徨(さまよ)っているのだ。

 

 今にも(つまず)き転倒するのが目に見える。

 

 だが――意外。()()()()()()()

 

「おー……ろー……もー……」

 

 ヒミコはそのまま窓際に辿り着き、屍人(ゾンビィ)が生者に(すが)りつくような動きで窓掛け(カーテン)()けた。

 

 分厚い雲が広がっている。もしかしたら今日は一雨降るかもしれない。

 

 それでも東の空では雲の切れ目から(だいだい)色の朝日が(かすか)かに(のぞ)き、暗い室内をいくらか照らす。

 

「ぼろろけひめ……」

 

 ここにきてようやく、ヒミコの頭が一割ほど仕事を始める。

 

 下着に襦袢(じゅばん)一枚のしどけない姿だ。

 

 まずは服を着よう。

 

 巫女装束。ツクヨミ配給の。

 

 どこだ。どこにある。

 

 ……おかしいな。

 

 ない。

 

 いつも適当に脱ぎ捨て床にほったらかしにしているのに。

 

 だが今日は、どこを見ても何もない。

 

 巫女装束どころか――()()()()()()()()

 

「 ⁉ 」

 

 完全に覚醒した。

 

「どこだここは⁉」

 

 思わずそう声に出さずにはいられぬほどの……()()()

 

 そう、まさに別世界であった。

 

 ゴミひとつとしてない?

 

 否、それどころではなかった。

 

 室内は完璧に整理整頓が行き届いた上で、さらには見たこともないような家具や装飾品で(いろど)られている。

 

 いつの間にやら洒落(しゃれ)た小机が持ち込まれ、その上では異海急須(ティーポット)が湯気を昇らせていた。ちなみにヒミコは緑茶派である。異海茶は好きでない。

 

 次。壁。()()()()()()()()()()()()()。たった一晩にして。しかも高そうな時計や名前もわからぬ飾り物がしれっと我が物顔で掛けられている。

 

 いや――それだけではない。

 

「な、なんだこりゃ……?」

 

 丁度、壁の中央。一番おいしい位置(ポジション)に何やら額縁(がくぶち)のようなモノが吊り下げられている。

 

額縁(がくぶち)のようなモノ〟という曖昧な表現は、その上から器用に幕が掛けられていたためだ。

 

 まるで。

 

 とっておきの贈り物(プレゼント)でも出し惜しみしているかのように。

 

「………。………………。………………………。」

 

 嫌な予感がする。

 

 というか嫌な予感しかしない。

 

 それでもヒミコは意を決し、一息に幕を取り払った。

 

 するとそこには。

 

「……マジかよ」

 

 額縁。

 

 やはり額縁である。

 

 それも結構大きい上に高級そうな。

 

 当然。

 

 額縁である以上、そこには()()が入っている。

 

 絵画。そう、絵画だ。もう少し分類(カテゴライズ)して言うと――()()()

 

「うへぇ……」

 

 対象(モデル)はヒミコである。

 

 ありえないくらい美化されていた。

 

 目はどこまでもキラッキラ。髪に至っては(あふ)れ出さんばかりの毛小皮(キューティクル)でほとんど銀髪じみていた。

 

 極めつけは表情で、絵の中のヒミコはなんと聖母のような穏やかな微笑(ほほえ)みを浮かべている。でもって背景の鳥や花たちと楽しそうにキャッキャウフフしていた。

 

 正直。

 

 吐き気を(もよお)すほど邪悪な悪意でもなければここまで真逆に描けないのでは、と思わせるくらいには何もかもが現実とかけ離れた幻想()であった。

 

「――!」

 

 その時、ヒミコがふと気配を感じ取る。

 

 即座に扉へ。下着に襦袢(じゅばん)一枚だが、ええい構うものか。

 

 そのまま勢いよく扉を開ける。

 

 そこにいたのは――、

 

「てめぇ……!」

 

 やはり。ユイナ。

 

 方波見(カタバミ)ユイナ。

 

 理由は知りたくもないが、ヒミコのモノと(おぼ)しき巫女装束を大切そうに胸に抱えている。

 

「あ、あ、あ――ッ!」

 

 しばし言葉を失うユイナ。

 

 ……随分と血色がいい。顔がテカテカだ。なんだかやたらと甘い匂いもする。

 

 ユイナはそのまま金魚のようにパクパクと口を開いては閉じを繰り返していたが、やがて首から耳まで林檎(りんご)のように真っ赤になると、クワッと視線を新たにヒミコへ合わせ、今にも輝きださんばかりの笑顔で言い放つ。

 

「ぐ、偶然ね。ヒミコ」

 

「ウソをつけ」

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