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幻葬鬼譚 ~神話ヲ殺ス少女タチ~  作者: K. Soma
第七話 異海から来た少女

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96/226

18

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 同日 同刻

 /結界封印都市ヒモロギ

  ツクヨミ 対鬼戦闘司令本部 西門

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

 

 黄昏時(たそがれどき)に吹く生温(なまぬる)い風がヒミコの頬をくすぐった。

 

 長い黒髪が夕陽で(きら)めき、そよ風の中を泳いでいる。

 

 身に纏った白衣(びゃくえ)緋袴(ひばかま)が、彼女の幻想を一層際立(きわだ)てていた。

 

 なんとも美しく、そして(はかな)い光景である。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「……っ」

 

 前からぐるりと回り込んで見てみれば――不機嫌そのもの。

 

 ほとんど狂犬じみた顔つきである。

 

 せっかくの精緻な造りの(かんばせ)は、寄りに寄った眉根と力の限りの歯ぎしりで台無しだった。

 

 ヒミコがこうも機嫌を(そこ)ねている理由はただ一つ。

 

(仕留め(そこ)なった……!)

 

 それである。

 

 あの時、〈アマテラス〉は確かに御幣(ごへい)で鬼の〝()(ツノ)〟を(とら)えた。

 

 しかし……窮地においてなお、敵は一枚上手(うわて)を行った。

 

 再度の鬼門(キモン)形成からの迅速な撤退。

 

 後から本部で聞いた話によると、これまで一度として鬼が退()くことなどなかったらしい。

 

 それをあの土壇場で、一切迷わず実行した。

 

 敵ながら実に冷静な判断である。

 

 ミヅキやシマメ(いわ)く〝鬼が賢くなった〟(あかし)らしい。

 

 二人の沈んだ顔色からどれほど深刻な事態かが見て取れた。

 

『はぁ……』

 

 ――奇妙なことに。

 

 意気消沈していたのはミヅキとシマメだけではない。

 

 ヒミコの隣りを歩くハクもまた、小さな肩をがっくりと落としていた。

 

『たべそこねた……せっかくのごちそうだったのに……はぁ』

 

 よく聞けば先ほどからそのようなことばかりをブツブツと呟いている。 

 

 ()()()()()……?

 

 何をだ? 朝から気に入っている握り飯のことか?

 

 いや、そんなはずはない。今まで〈アマテラス〉に乗って戦っていたのだ。食事の暇などない。

 

(まさか……)

 

 ()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()、と。

 

(おい、お前――)

 

 ヒミコがハクに疑問を投げかけようとしたその時、

 

神越(カミコシ)……ヒミコ」

 

 唐突に。呼び止められた。後ろから。

 

 ヒミコは即座に振り返る。

 

 そこにいたのは――

 

「……またてめーか」

 

 金髪巻き毛、金糸雀(カナリア)色の瞳の少女。

 

 方波見(カタバミ)ユイナだ。

 

 ただならぬ雰囲気でキッとヒミコを()めつけている。

 

「そういえばてめーには色々と借りがあったよなぁ……!」

 

〝コレが片付き次第、〆に行く〟――ヒミコは出撃前の決意を思い出した。

 

 途端、身体から立ち(のぼ)怒気(どき)

 

 鬼を討ち損じて業腹(ごうはら)だったのもあり、ヒミコはいつもより余計に攻撃的である。

 

 松竹梅の三人娘なら目があっただけで回れ右したであろう威圧感だ。

 

「ヒミコ……」

 

 だがユイナも()る者。

 

 片時もヒミコから目を離さぬまま、さらには一歩、また一歩と歩みを進めてきた。

 

「へえ、やろうってぇのか。アタシと」

 

「……そうね。そういうこと」

 

 ヒミコは毛ほどもこの状況を危険視していなかった。

 

 これまでの戦いぶりを見るに、ユイナが得意とするのは御札(おふだ)を用いた中距離特殊戦闘。

 

 この距離で、ましてや真正面からで、自分が負けるはずはない。

 

 そう確信していた。

 

(……ハン、少しでも殺気を出してみろ)

 

 その瞬間、(たた)んでやる。

 

 ヒミコはそう決め、ユイナの動きを待った。

 

 ……だが。

 

 いつまで()ってもユイナは戦闘態勢に入らない。

 

 ただ、こちらに向かってくるのみだ。

 

 ゆっくりと。

 

 一歩ずつ。

 

 それなのに――、

 

(なんだ……⁉)

 

 不意にヒミコは()()()()に襲われた。

 

 ユイナが近づく度に、加速度的に()()は膨張していく。

 

 ジリジリと、ジリジリと、肌が焦げつきそうな危機感が加速度的に増していった。

 

(何をするつもりだ……⁉)

 

 だがやはり、ユイナは何もしてこない。御札を構えることさえなかった。

 

 ただ、近づくだけ。

 

 一歩、二歩とヒミコに近づいてくるだけ。

 

 顔を(うつむ)かせたまま。

 

 ――そして。

 

 とうとう。

 

 すぐそこへ。

 

 互いの息遣いすら掴めるすぐ近くへ。

 

(やばい――!)

 

 ヒミコは訳も分からぬまま、(ふところ)御幣(ごへい)に手を伸ばした。

 

 だがそれよりも早くユイナが動く。

 

 ()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()

 

(はぁぁぁぁああああぁぁぁあああああッッッ⁉⁉⁉)

 

 結論から言おう。

 

 ユイナがしたのは〝接吻(キス)〟だった。

 

 それも。

 

 れろんれろんに舌が這入り込む。

 

 所謂(いわゆる)()()()()()〟であった――。

 

 

 

 ~第七話 異海から来た少女 完~

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