09
実際、決着はあっさりとついた。
今や大型鬼三体はすべて屠られ、大地に亡骸を預けている。
椿組と桜組の手により小型鬼も掃討されていた。
つまり、辛くも第六結界柱を死守できた、ということである。
ミヅキはホッと胸を撫でおろした。
「……んで?」そこへヒミコが問いかける。「いったいなんだよ。あのでけーのは」緋色の瞳は機械仕掛けの巨人を捉えていた。「あんなの、見たこともねーぞ」
「擬霊式駆動人形〈ウズメ〉。それがあの機体の名よ」ミヅキもそちらをチラリと見遣る。「あなたが見たことないのも当然ね。大型鬼との戦いのために、ヒモロギで秘密裏に建造されたものだから」
「……色々と訳アリみてーだな」
「後でちゃんと説明するわ。神越さんにここまでご足労願った理由もね」
「アレに乗って、戦えってか?」
「ちがうわ」ミヅキはきっぱりと否定し、「あなたが乗るのは〈ウズメ〉ではないもの」早々に踵を返す。
「……は?」
「急ぎましょう。まずは本部まで戻るわ。直接見て貰った方が早い――」
「おい、なんだよアレ!」
「え」
次の瞬間、周囲に赤黒い液体が勢いよく飛び散った。
ミヅキの顔半分と上半身にも容赦なくそれが浴びせられる。
知っている。ミヅキはこれを知っている。霊機油だ。言うなれば〈ウズメ〉の体液。機体内を循環し制御系と霊気系への伝達を司る。
それが、何故――?
ミヅキは〈ウズメ〉の方へ振り返った。
あんな。
あんな不格好な機体だったか? アレではまるで達磨に繊細い手足でも生やしたかのようだ。
いや違う。そんなはずがない。
〈ウズメ〉はあんな姿ではない。アレは――
「何ぼうっとしてんだよ、アンタは!」
咄嗟の所でヒミコに抱かれ圧縮空間を跳ぶ。連続して、跳ぶ。
かなりの距離を挟んだ。
おかげでようやくミヅキは敵の全貌を知る。
「あ、あ……!」
大型鬼との戦いを想定し設計された〈ウズメ〉は――様々な物理・技術的課題をどうにか解決し――ほぼ同程度の尺度を持つ。
つまり成人男性のおよそ五倍の全長だ。二階建ての一軒家と遜色のない、紛うことなき巨人の丈である。
だが。
敵はその遥か上をいった。
「そんな――」
〈ウズメ〉を巨人とするならば、目の前のそれは正しく巨神。
神話の如き偉容である。
目測だが、人の五倍の〈ウズメ〉より――さらに五倍。
達磨に手足を生やした?
違う。そうではない。〈ウズメ〉は上半身ごと手で握り潰されていたのだ。
人の身の丈ほどもある長くて巨大な指の隙間。そこから噴き出した霊機油が、周囲に飛び散ったのである。
ミヅキの震える唇が、無意識の内に彼の者の名を紡いでいた。
「禍ツ忌ノ鬼――!」