04
「はぁ? りょーじょくだぁ――?」
ヒミコは〝ナニ言ってんのコイツ〟の顔で訊き返した。
ちなみに、周囲はこれでもかとばかりにざわついてる。
「し、知ってるんだぞ私は! 本人からそう聞いた!」
ルリカ。まるで熟した林檎のように真っ赤っ赤である。
どうもこういう話に耐性がないらしい。
「ちょっと待てよ。アタシはんなことした覚えが――」そこまで言って思い出す。「あ」
した。
した……かもしれない。
いや、した。
以前、鞄を隠された時のことである。
とりあえず目についた者から処刑していき、すぐに誰が首謀者かを突き止めた。
それが松竹梅の三人娘。中でも主犯格が〝松〟とのこと。
だからヒミコは今後面倒なことが起こらぬよう、念入りに〝松〟を痛めつけたのだが……これが中々どうして。いい根性をしている。
〝松〟はどれだけボコボコにされてもキッと鋭い眼差しを崩さず、強い意志一つを拠り所に反抗を続けてきた。
まるで〝たとえ力及ばずとも心までは屈しないっ〟とでも言うかのように。
そういうことをされたら意地でも心をへし折りたくなるのがヒミコである。
さりとてどうするか……。
確かに〝松〟は頑丈である。このまま暴力を行使しても耐え得るかもしれない。
――じゃあ〝逆〟で攻めてみっか。
思い立ったが吉日で即行動。
試しに首筋からゆっくりと指を這わせ、痛みではなく快楽で、苦しみではなく悦びで嫌がらせをしてみる。
そうしたら。
効果は覿面。
なんか思ったより全然いい反応が返ってきたので、ついヒミコも加熱してしまい……最終的に、結構すごいとこまでやってしまった。
だから、その。
うん。
凌辱、しました。
して、しまいました。
あの後色々あってすっかり忘れていたが……。
(多分アイツ〝はじめて〟だったんだよな……? あちゃー、確かにはじめて相手には結構えぐいことしちまったかもしれねぇ……)
実は緋ノ巫女の間では、女どうしでああだこうだというのはよくある話だ。
所謂〝百合〟である。
古今東西、生死を生業とする者たちの間で同性愛が罷り通るのは決して珍しいことではない。
理由の一端は、肌を重ねた温もりがそのまま信頼と安心に繋がるからだろう。
ましてや緋ノ巫女の場合〝破瓜〟で力を失うという明白な弊害があり、言うなれば異性欲が常に抑圧された状態にある。
結果、行き所をなくした情欲が弾け飛び、本来の性的嗜好とは関係なしに〝百合〟へと走らせる事例が多々あった。
大っぴらに口にできぬ内容故に正確な数字は定かでないが、ヒミコの見立てでは帝國巫女の半数近くが一度はその道に足を踏み入れている。
ヒミコの所属していた肆番隊に至っては、全員が〝経験あり〟なくらいだった。
「……ま、まあその、なんだ」流石のヒミコでも若干気まずそうに明後日の方向を見ながら言う。「……遅かれ早かれ通る道だ。多少早まったとこで大した問題じゃねーだろ」
「んなワケあるか!」即座に噛みつくルリカ。ちなみに顔は耳まで赤いままだ。
「……お前そんなんじゃ将来苦労するぞ」とヒミコ。謎の上から目線である。
「そういう話をしてるんじゃなくってだなぁ――!」
いよいよルリカの堪忍袋の緒が切れそうになったその時、
「え、あれって……!」
「うそ……⁉」
「帰ってきたんだ……!」
今まで必死に聞き耳立てていた聴衆のざわつきが一変する。
ある一つの名前と共に――。
「 ⁉ 」
その瞬間、ルリカは〝ぐりん〟と首を回し後ろへ振り返った。
続けて右、左、前。
ぐるぐると、ぐるぐると、四方を見回す。
「……?」ヒミコは突然の変化についていけない。「おい、どーした。なんだよ急に」
ぐりん! ぐりん! ぐりん、ぐりん、ぐりん!
だがルリカはそれどころではない。
戦場でもそこまでしないのでは、と思わせるくらい周囲を警戒する。
やがて、
「あ――!」
ルリカの視線が定まる。
「ユ……」
その先には。
「ユ、ユ、ユ……っ」
豪奢な金髪の巻き毛。金糸雀色の目をした少女。
「ユイナ……!」
方波見ユイナが遠い目をして佇んでいる。
「 ぎゃぁぁああああぁぁぁああああああああああっ‼ 」
ルリカは一目散に逃げだした。




